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学長室

法制研究所パンフレット 学長挨拶 「もう一つの場所」

2016年04月01日
明治大学 学長室

誰であれ、なにかをやろうとすれば、もう一つの場所が必要です。例えば、お相撲さんは自分の所属する相撲部屋だけでなく、他の部屋に稽古に行きます。「出稽古」ですね。私もそうした経験があります。大学院のころ、私は明治大学法学研究科にいたのですが、私の高校時代の英語の家庭教師で、東京外国語大学卒業後、東京都立大学の教員となり東京大学の教員にもなった言語学者山中敬一さんと、新宿の紀ノ国屋書店でばったり会いました。その時、山中さんは都立大学にいて、都立大学の研究室では20世紀を代表する論理哲学者ウィットゲンシュタインを研究する坂井秀寿さんと同室でした。その坂井さんが都立大学でウィットゲンシュタイン研究会をやっていたので、そこに出て来いよ、と言われたのです。まだ院生でしたから、ちょっと躊躇しました。でも良い経験だから出てみるか、と思って月一回の研究会に行きました。そこには院生は私だけで、現職の教員ばかりでした。ギリシャ古典学の碩学廣川洋一さんなども参加していて、ウィットゲンシュタイン研究会としては異色なものでした。そこに出たことは、その後の私の研究には大きな刺激になりました。それは、まことに、私にとっては「もう一つの場所」であり、「出稽古」でした。

法学部にもこうした「もう一つの場所」があります。法制研究所です。将来、法律職につこうという学生や院生のための勉強の場所です。もちろん、法学部や法科大学院での勉強があります。しかし、司法試験に挑戦するためには、やはり、もう一つの場所が必要です。自分の勉強を鍛えるためもありますが、そこに集まる人たちの勉強の仕方や経験を知ることで、勉強の方法(メソッド)を深めることが出来ます。

現役の学生、院生だけでなく、すでに司法試験に合格した人や、法律職についているOBもそこにはいます。彼らから学ぶことはきっと多いはずです。自分の経験を客観的にみることができます。ああ、そうだったのか、という気づきもそこにはあるでしょう。これが勉強には大事です。具体的に情報を得るだけでなく、方法への「気づき」が大事です。
一つのやり方だけでは、なかなか目的へのメソッドはあらわれません。試行することが必要です。つまり、「もう一つの場所」が必要なのですね。まさに「出稽古」です。
学生、院生、OBが集う法制研究所をみなさんの「もう一つの場所」にすることで、この明治大学の学びのネットワークを自分の場所にしてください。きっと、そこには、たくさんの「気づき」があります。きっと。