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2009年度 卒 業 式
学長告辞「覚悟を決めて、前へ」
  

明治大学で学び、本日ここに、めでたく卒業式を迎えた皆さん、ご卒業おめでとうございます。明治大学を代表して、心からお祝いを申し上げます。

 私は4年前の入学式において、皆さんに対して「世界的な視野で、かつ遠くを見つめて、自らの活躍する『主座』を、是非、この明治大学で見い出してほしい」と願い、さらに「是非、友とお互いの夢を語り、そして自らの夢(大志)の実現に備え、勉学に励んで下さい」と語りかけています。皆さん、本学での学生生活は如何でしたか。充実した、実り多いものであったと推察しております。

 昨年10月から今年1月まで、本学の中央図書館で「阿久悠」展を開きました。彼は1959年に本学の文学部を卒業しました。作詞家として、都はるみの日本レコード大賞曲「北の宿から」など数々のヒット曲の歌詞を手がけた方です。その展示会で、彼の言葉として「夢は砕けて夢と知り、愛は破れて愛と知り、時は流れて時と知り、友は別れて友と知り」が紹介されていました。長い人生を歩んできた者にとって、大変胸を打つ言葉です。確かに、過去を振り返ると、その時には気づかなかったことが、自らの人生にとって重要かつ決定的な意義を有していたことに気づくことがあります。過去を変えることはできません。しかし、現在を真剣に生きることによって、自らの将来を変えることは可能です。

 そこで、皆さんに贈る言葉として、今年度は「覚悟」を選びました。「覚(かく)」の旧字は、学生の「学」の旧字である「學」の省略形と「見(みる、けん)」の合字であり、その会意は「見たり学んだりして、物事の道理をさとる」とのことです。後者の「悟(ご)」は、ご存じのとおり「道理をさとる」ことを意味していますから、2つの語とも「物事の本質(道理)を見極めて、自らの進むべき『道』をはっきりと知る」ことを意味しているといえます。

 皆さんの前途には、人生の岐路に直面した場合においては勿論、日常的な仕事や生活の場においても、自らの進むべき「道」を選択しなければならないことがあります。そのときには、この明治大学で修得した叡智、そして自らの血肉にさえなった「明治魂」を拠り所にして、何時どのような局面に遭遇しても、「前へ」進むことを基本にしてほしいと願っています。真剣に物事に取り組み、その対象事項につき「道理をさとる」、すなわち「覚悟」を決めて、真正面から問題の解決にむけて行動に移すこと、そのことが大切です。「前へ」進めば、「道」は開けます。たとえ失敗しても、それが糧になり、新しい視点のもと物事に取り組む機会を得ることができます。

 ところで、世界は今、第二次大戦後の諸制度を変革しつつあります。戦後、わが国が諸分野にわたって指標としてきた米国モデル(米国流資本主義)、それ自体が転換期に入っています。このモデルは、かなり大胆に 私なりに要約すると、「適者生存」の原理をもちだして、物事につき「合理性」や「効率性」を指標に、「自由市場」において勝ち残ること、そのことを目指す社会が望ましい社会であると考えているものです。そこでの勝者は、正当な報酬として巨額な富、ボーナスを手にしえることを是とする社会を想定しているともいえます。
 しかし昨今、アメリカ経済の基幹を形成する銀行、証券、そして保険業界が、いわば一体化して、過度なハイリスクを秘めた金融商品を市場に出しました。サブプライムローンをベースに、そのリスクを保険でカバーした商品、すなわちデリバティブ(金融派生商品)です。この問題がリーマン・ショックの形で顕在化し、いわゆる金融危機を招きました。そして、各国の実体経済にまで深刻な影響をもたらしたことは、皆さんも就職活動で苦しい思いをしたことで実感していることでしょう。
 そのことについて、自らの責任を十分に果たしていないにもかかわらず、公的資金による救済を受けた銀行等が、その一部とはいえ、公的資金すべての返済見通しが立ったことを受けて、「高額賞与(ボーナス)」制を復活させる動きを見せています。この事態につき、オバマ米国大統領が昨年12月に「米金融街は太った猫」と批判したことは、事態の本質を突いたものといえます。
 人類の用いうる資源は有限であり、各国または民族の置かれている状況が平等でないところでの「自由競争」は問題であると思います。物事には「節度」が必要です。自らの「守備範囲と限界」を自ら律すること(悟ること)が求められています。人類が希求すべき最高位の価値は、お金ではありません。「個人の尊厳」であり、人びとが平和裡に、しかも平等に人間らしく生きる」ことであります。そのための社会制度(システム)の確立は、全世界を視野に入れ、時代の変化に対応するなかで実現されるべきです。人々は、他者への思いやりを忘却することなく、多様性のなかの共存にむけて、他者と連携・協同して事に当たるべきです。 
 この視点のもと、皆さんには、自らの夢にむけて「覚悟」を決め、巣立ってほしいと願っています。

 最後になりましたが、皆さんの前途に幸多いことを心よりお祈り申し上げまして、私の告辞といたします。

学長  納谷

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