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研究科長あいさつ

「拓く」力を

国際日本学研究科長  宮本 大人

国際日本学研究科長 宮本 大人


 閉塞感、格差、分断といった言葉が、私たちの今の社会のあり方を形容するものとして盛んに用いられるようになったのは、コロナ禍に始まったことではありません。しかし、コロナ禍以降、いっそう強く、こうした言葉が説得力を持つようになっているのではないでしょうか。

 2020年に始まったコロナ禍で、私たちを悩ませた問題はたくさんありましたが、一番辛かったのは、日本に入国できない状態に置かれる留学生がたくさんいたことでした。このあいさつ文を執筆している今も、入国できないまま、遠隔での学びと、自分自身の研究のための調査を続けている院生がいます。

 2008年に設立された国際日本学部、2012年に設立された国際日本学研究科は、国境を越えて人・モノ・情報が行き交うグローバル化時代において、日本と世界の関係を、常に変化する流動性の中で、動的に捉えようという問題意識の中で生まれました。

 そこには、国境というものの「障壁」としての力が弱まっている、という認識があったように思います。しかし、コロナ禍のような世界的な感染症の拡大は、国境というものの「閉ざす」力の強さを再認識させることになったように思います。感染拡大そのものはその「閉ざす」力をもってしても止められなかったにもかかわらず、少なくとも人の移動は厳然と制限されました。これは、多くの留学生を受け入れ、また、国外の大学・研究機関との交流を進めていこうとしている国際日本学研究科にとって、深刻な課題となりました。

 国境は、なくなってはいない。コロナ禍以前からすでに世界各地で問題化していたことですが、急激なグローバル化がもたらす、それぞれの国や地域の経済・社会・文化の、混交、融合、変容は、いつもスムーズに友好的に進むわけではなく、様々な衝突や摩擦を招き、それに対する反発をもたらすこともあります。

 こうした状況の中で、国際日本学研究科は、その真価を問われていると思います。日本語を研究し、日本語を母語としない人々に教える方法を研究すること。英語を研究し、英語を母語としない人々に教える方法を研究すること。異文化間の壁を乗り越え、多文化共生社会を実現する方法を研究すること。国境を越える経済活動や情報メディアの働きを研究すること。世界に広がる日本のポップカルチャーのあり方を研究すること。人間が形作ってきた様々な文化とその歴史、そしてそれを支える思想について研究すること。これらすべてが、今、私たちを改めて、国境の外に、「開く」力につながっているはずです。

 すべての学問は、まだ答えの出ていない問いに、先人の積み重ねてきた知の助けを借りながら、自ら答えを出そうとする営みです。まだ人が踏み入っていない世界を切り拓く力が、求められます。「拓」という漢字は、手と石の組み合わせでできています。目の前に置かれた大きな石のように重い課題を、自らの手で動かしていくイメージを、そこに見出すことができます。視野を開き、新しい世界を「拓く」力。私たちと一緒に、そうした力を身に着けたいと願う皆さんを、お待ちしています。

 
以 上
明治大学大学院