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不透明な時代のリスクと向き合う文理融合の数理科学。アクチュアリー数理のこれから
明治大学 総合数理学部 現象数理学科 松山 直樹
私の専門はアクチュアリー数理という、文理融合的な数理科学の一分野です。アクチュアリーとは、伝統的には保険や年金の分野で必要な数理事項を担当する専門職のことをいいます。世界各国にアクチュアリー組織があり資格認定が行われていて、保険会社や年金基金の運営にかかわる専門的職務の中には、法律でアクチュアリー資格が要請される職務があります。私自身も日本のアクチュアリー資格を持っており、保険や年金の数理実務に携わっていた経験があります。最近では、アクチュアリー資格の取得には、大学や大学院で勉強を始めてアクチュアリー候補生として保険会社等に採用され、さらに実務経験を積みながら勉強を続けて平均7〜8年かかることが一般的なようです。
もともと人の生死を対象とする生命保険のリスクを確率モデルで保険料として見積もり保険事業を健全に運営していくための数学として出発したアクチュアリー数理は、生命保険から交通事故や火災のリスクを対象とする損害保険の領域に広がり、長い歴史の中で多種多様なリスクを扱うようになりました。一方で、銀行や証券といった金融の分野で20世紀中盤に登場したファイナンス数理は、市場を通じてリスクが自由に他者に移転(ヘッジ)できることを前提とすることで大きく発展しました。その後、経済の自由化・グローバル化の中で金融と保険の境界が曖昧になり、伝統的アクチュアリー数理の限界が認識されるようになりましたが、一方で、いつでもリスクの自由な移転が可能という前提に無理があったことや多種多様なリスクの混在などの現実を背景に、金融機関のリスク管理の失敗がしばしば大きな社会問題を引き起こすようになりました。