聞き手は、頭の中の「知的枠組み」(frame of reference)に当てはめて外部からのメッセージを理解します。そのため同一のメッセージが相手によって肯定的や否定的に受け取られたりするために誤解や対立を招くこともあれば、説得的な象徴行為が社会に大きな影響力を持つこともあります。このゼミでは、演説や社会論争等の公的言説から映画やテレビ等のポピュラー・カルチャーまで自分が興味のある言語文化コミュニケーションに関するメディア批評のテーマを深く知るための方法論を学びます。
春学期は、ポピュラー・カルチャーを「政治的闘争の場」(a site of political struggle)と考えるカルチュラル・スタディーズ研究者ジョン・ストーリーの教科書を読みます。社会構成主義は、例えば、ジェンダーによる役割や人種のステレオタイプが「社会的に構築された現実」(social reality)に過ぎないにもかかわらず、そうした現実に人々が「参加する」ことで影響されていると考えます。背景には、知識を構築した人々の利害関係があり、彼らは普段からそうした知識を維持しようとしたり、危機を迎えた場合には守ったりしようとします。構造主義は、記号論や二項対立の概念を駆使しながら言語の差異関係が生む構造を見いだそうとします。マルクス主義は、資本主義からの人の解放を目指すマルキシストと偏見・差別・権威など人を拘束するすべての社会状況からの解放を目指すネオ・マルキシストに代表されます。また、近代主義(modernism)が真・善・美の三分野で統一的な基準をあまねく当てはめようとするのに対し、ポストモダニズムは多元文化主義に判断基準の相対化をすることで絶対的な価値観の否定を目指そうとします。秋学期は、説得コミュニケーション論としてのレトリック批評を読みます。社会的コンセンサスを形成し、人々の協調活動を促す言語を研究するレトリックは、歴史の転換点や社会が重要な危機を迎えた時に、言葉による説得が人々の選択に大きな影響を与えたという考え方です。具体的には、『スター・ウォーズ』やアメコミのヒーロー物(あるいは『ジョーカー』のようなアンチヒーロー物)に上記の方法論を当てはめてキャラクターを分析することができます。あるいは、戦前の日本文化の香りに貫かれたアニメ『サザエさん』や、戦後の自由な空気を体現する『ちびまる子ちゃん』などの社会的文脈(social contexts)としてのイデオロギーに着目することで批評の論文を書くことができます。