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公益社団法人 日本国際民間協力会NICCO (京都市中京区)訪問







1.活動内容
公益社団法人日本国際民間協力会(NICCO)は京都生まれ、京都育ちの日本で最も長い歴史と実績を持つ国際協力NGOの一つです。
「京の町家から、世界に笑顔を!」をテーマに、設立以来約30年にわたって途上国の人々が自分たちの力で生きてゆくことを目指して様々な自立支援プロジェクトを行っており、また、海外だけでなく国内においても、滋賀県竜王町の琵琶湖モデルファーム事業や国際協力分野に寄与する人材を育成するためのインターン制度等を実施しています。
<海外活動の詳細>
1)緊急災害支援
災害が発生した場合、24時間以内の初動開始・72時間以内の現地到着を基本に救援活動を行っています。近年の実施事業として、2009年には中国四川大地震被災者支援、パレスチナ・ガザ地区人道支援、インドネシアスマトラ島パダン沖地震被災者支援、また2010年に入ってからはハイチ地震被災者支援、パキスタン水害被災者支援など。
2)長期的自立支援
恒常的な貧困状態にある人々に対して、パーマカルチャー(持続可能な生活環境を作り出すデザイン体系)に基づく環境保全型有機農業技術支援や、職業訓練・教育支援を行っています。
①ヨルダン    =イラク難民支援と女性の自立支援
②パレスチナ   =オリーブ農家支援
③イラン     =アフガン難民就職・帰還支援
④アフガニスタン =女性を対象とした識字教室・IT訓練
⑤マラウイ    =食の安全保障の確立と衛生改善
上記のように、たくさんの事業を実施されているようですが、今回の訪問ではイランのアフガン難民の人々への就職・帰還支援の事業を中心にお話を御伺いしました。

2.聞き取り調査
1979年の旧ソビエト連邦によるアフガニスタン侵攻以来、イランには大勢のアフガン難民が発生しています。イラン国内では難民の就労に制限があるため、NICCOは難民がアフガニスタンに帰還した後にすぐに就職できるよう、就職のためのITや英語の訓練、インターン制度による実務研修を行っています。また、難民の中にはイランで生まれ育ったために祖国を知らずに20代となっている人々も多く、「祖国へ帰るのは恐いのではないか。」という不安を考慮し、アフガニスタンから講師を招いて彼らの祖国であるアフガニスタンの現状や就職状況を伝えて帰還に対する意欲を高めるといった取組みも実施しています。
しかし、アフガニスタンの治安悪化により、安全面はもとより、帰還しても生活に困らないほどの収入が得られる仕事は限られている、という懸念もあるようです。
そのため、優秀な人材を育て、帰還後すぐに仕事を見つけられるようにすることを目標に置いて、難民の将来を見据えた事業を実施しているようです。

以下、質疑応答。
Q.民間企業との連携について詳しく教えてください。
A.企業はCSR活動の一環として、NGO活動に対する助成を行っており、NICCOがその助成に対して申請書を提出し、企業の意向とマッチすれば助成してくれます。また企業がNICCOの支援事業に対して直接ご寄付いただく場合もあり、例えば2009年10月に発生したスマトラ島パダン沖地震での被災者支援事業ではオムロン株式会社さんからまとまった寄付金をいただきました。さらに、企業とNGOがそれぞれの長所を生かし協働で事業を行う場合もあります。例えば、住友化学株式会社さんはマラリア予防のための防虫蚊帳(オリセットネット)を作っていますが、住友化学株式会社さんがその蚊帳を寄贈し、NICCOはアフリカのマラウイでその蚊帳を住民に配布し、さらに正しい蚊帳の使い方を教えることでマラリアの予防効果を高めるといった連携により、マラリア対策の事業を進めています。
Q.アフガニスタンやイランに行く際に、日本のNGOだけでなく諸外国のNGOもあると思いますが、NICCOが撤退した後に他国のNGOが違う指導をして混乱することはあるのでしょうか。
A.現在、NICCOが事業を行っているイラン・マシャッド市には、NICCO以外の国際NGOは活動していません。以前は、他国のNGOも活動していましたが、その時は定期的にミーティングを行い、お互いの事業について情報共有を図っていました。
また、一般的に緊急支援の際は他国のNGOもたくさん入ってきますが、国連が分野ごとにクラスターミーティングを開催し、その場でお互いの支援内容について情報共有を行い、支援が重複しないよう調整しているので、混乱はありません。
Q.実践訓練コースに女性も参加するのでしょうか。
A.希望者を募っているので、こちらが決めている訳ではないのですが、イランの職業訓練の参加は女性の方が多く約6割を占めています。現地のインターンもほとんどが女性です。
Q.会員や寄付者の方々からの寄付金の使い道に支援国と国内事業の活動費とありますが、具体的にどのような事や物に使われているのでしょうか。
A.海外での事業を支えるために、国内では事業を管理するための経費がどうしても発生します。例えば、事務所の家賃、会計処理を行うスタッフの人件費などです。これは、NICCOが法人として事業運営を行うために必要不可欠な経費です。
NICCOは、ご寄付いただいたお金をできる限り海外の事業のために使いたい、と考えており、上記の管理経費は必要最小限に抑える努力をしています。例年、管理経費は、全支出の約5~8%程度です。
Q.お金だけでなく支援物資なども会員や寄付者の方々から受けていますか。
A.原則として支援物資のご寄贈は受け付けておりません。物資を日本で受けた場合、その輸送のためのコストがかかります。また、現地で購入すれば、購入のために支払ったお金は現地の商人を介して現地で流通するため、現地での支援物資の購入そのものも、現地に役立つ、と考えているからです。
Q.ホームページを見ると、『京の町家から』ということを強調していますが、京都にあるNICCOの特徴ある海外支援などがあれば教えて欲しいです。 A.海外支援そのものというより、海外の事業を支える国内の活動として、①京都ならではの企業との連携(京都の企業も参画する「京都CSR研究会」への参加や、オムロン株式会社さんの社員OBの方のボランティア協力など)、②京都ならではのファンドレイジング活動(芸術と文化の作品展「チャリティ・オークション」への後援など)、③京都・関西のNGOとの連携(国際協力ステーション、ワンワールドフェスティバルといった国際協力イベントへの参加など)が挙げられると思います。
Q.ただ物資を提供するのではなく、途上国の人々の職業訓練や人材育成に力を入れていますが、そのやりがいや難しさを教えてください。
A.やはり大きな点は、職業訓練や人材育成では、受益者自身が自立していくための技術を教えていくことに、時間や受益者自身の努力が必要で、そのことを受益者に理解してもらうのには時間はかかりますし、逆に、受益者ががんばって自立に向けて努力をしようとしているところを見ると、自分も一緒にがんばりたい、何とかしてその人の技術が向上するよう支援してあげたい、と思います。

3.感想
単なるその場しのぎの経済的支援ではなく、職業訓練など将来を見据えた持続的な成長が望める事業を実施しており、真の国際協力というものを知ることができたと思います。
また、祖国を知らないまま成人を迎えている人々が大勢いるという現状を知り驚きましたが、お話を聞かせていただいた後に、難民の人々の夢を次々にテロップに流した映像を拝見し、その中に将来アフガンで何かをしたい、こんな仕事がしたいといった人が多数いて、NICCOさんが行っている事業の成果の象徴であると非常に感銘を受けました。
質問にお答えいただいた中に、支援物資を受け付けていない理由として、現地で購入すればそのお金が現地の商人のものとなり、それが現地で流通するため、支援物資そのものが役立つということに加え一石二鳥の貢献ができるというお話が印象的でした。
お金を与えるだけではその国や現地の人々の本当のためにはならないということをこれまでの研究で学んでいましたが、物資を提供することに関し、それを購入するときから貢献できることがあるという発想は全くなかったため、その考えには脱帽しました。
今回の訪問は国際協力に関する団体・企業として三つ目となりますが、今まで学んできたことに加え更に発展した考えが芽生え、国際協力という研究テーマに対し新たな感じ方を得ることができ大変有意義な訪問をすることができました。 NICCOさん、ご多忙の中貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。心より感謝申し上げます。(小川)


実施日 2010年9月16日
実施場所 京都府京都市中京区
担当教員 小関隆志