先日、ある若手校友の講演を聞く機会があった。報道機関に勤務するこの校友の主張した要点は3つ。視聴者へのメッセージは元気を出そうということ、伝えるにあたっては真心をもってすること、その基本は明治大学の校風ともいうべき正義感にあることの3点である。社会生活の最低条件ともいうべきこの3点は、創立者が建学理念の前提に示した形式的美にとらわれる国立大学に対し、心のなかの「実質の美」の明大主義の強調に通じ、伝統が今日なお生きていることを痛感させられた一時であった。この校友の語った「心のふるさと」明治大学の伝統は、永遠に継承させるべきものであろう。
伝統といえば、明治大学は今年、創立123年目を迎えた。新世紀4年目の今日、大学をとりまく環境は大変厳しい。明治大学は大正9年大学令による大学昇格以来、校内外に「大明治建設論」が登場する。このとき準備されていた政治経済学部を契機に、昭和初期に女子部と文科専門部が、昭和20年前後に明治工業専門学校と東京明治農業専門学校が併設され、昭和24年新制大学化で法、商、政、文、工、農、短大の総合大学に発展した。昭和28年経営学部が新設され7学部1短大体制が確立する。
このように大明治建設論は学部増設問題として推移し、今年4月には短大が情報コミュニケーション学部として再生し8学部体制となり、専門職大学院も創設されたことは記憶に新しい。この新学部はかつての「環境デザイン学部」構想の到達点であり、新学部の検討のなかから新世紀に向けての学問上の制度的対応の性格が明らかになってきた。片仮名学部の多くの登場は、従来型の学部編成に反省を迫り、文理融合型学部へ組織化を要請することになった。従来型では包摂し得ない学問や余剰定員を統合して新学部化する社会的要請が、大明治建設論の質的転換を促すことになったのである。
大明治建設論が登場してまもなく、他方で主張されはじめたのは「学の明治」確立論である。明大アカデミズム論でもあるが、この検討はなおざりにされてきた。この点は新世紀を問う学部編成の基礎に据えらるべき大問題であった。建学理念の時代的対応の問題でもあるが、幸い明治大学は権利自由、独立自治の21世紀型理念を当初より掲げ苦闘してきた歴史をもつ。
新世紀はその理念がどれほど現実の学問研究に生かされ、新世紀の学問的転換の基礎に、意図的に据えられるかである。学部編成にとどまらず、教員、校友の教育研究に「駿台学」ともいうべき理念が生かされる必要がある。関係者一同の自己変革を前提としよう。
そのうえで今日的課題としての競争原理と共同体原理の調和が問題になる。厳しい競争原理に対応するためには自立的努力による学問上の切磋琢磨が必要となり、学内の知的連帯を高める結果にならねばならない。この知的連帯は大学活性化の基礎ともなり、学内の共同体的連帯を強め、学生に卒業後も慕われる「知と心のふるさと」にならなければならないであろう。明治大学の新世紀はこれらを実現し輝くものとなる。
(文学部教授、大学史資料センター所長) |