「明治大学広報」
 
第558号(2005年7月1日発行)
論 壇: 社会の潮流と大学の地歩確立
大学院ガバナンス研究科長 市川 宏雄
 バブル経済の崩壊は、それまでの護送船団方式、終身雇用、寄らば大樹などぬるま湯的体質の日本人の既成概念を打ち砕いた。民間企業では、この社会の変化をいち早く捉え、時機を逸すれば組織消滅の運命の下で改革に向かい、弱肉強食の世界を生き抜いている。

 護送船団方式の終焉は、文科省の大学運営の方針にも表れてきている。規制緩和の流れのなかで、申請事項であったものの多くが届け出に変わりつつある。指導に従えば安泰であった時代は、仕掛けも結果の受け入れも大学の自己責任の時代へと変ったのである。

 変革は、「どうしようか」ではなくて「こうしたい」という明確な意思の存在で初めて動き出す。前者の提言がうず高く積まれてきた明治大学も、いよいよ後者の実現に向かって一歩を踏みだした。

 21世紀にあって、大学の潜在力は2つの要素で大きく評価される。伝統と立地である。

もちろん古い歴史を持つだけでは意味はない。伝統は世の中に輩出した人間が社会で数多く活躍することで初めて評価される。立地は、同様に重要である。戦後の日本で目指した分散政策は、東京23区内の大学の新増設を禁止した工業等制限法が撤廃されたことで、結局、都心の優位性を証明した。

 こうしたいとの意思表示は新たな4つの専門職大学院の設立に象徴される。このうち、公共政策大学院であるガバナンス研究科は、とりたてて資格取得につながらぬにも関わらず、開学以来、多くの希望者を集めている。現職の議員と自治体職員を主体に、地方公務員志望の若手も視野に入れている。国家一種受験希望者を対象にした国立大学法人とも一線を画した運営方針は、他学の追随を許していない。とりわけ、時間をとりにくい社会人への授業時間割の配慮、欠席者へのインターネットによる授業の配信など、学生のニーズに応える仕組みづくりが次々と打ち出されている。

 もちろんコペルニクス的展開も含めて教職員の熱意があってこそであるが、伝統と立地に恵まれた明治大学であれば、時代を先導した内容を充実させることで、他者の追随を許さぬものをつくり上げることが可能なのである。


 明治大学は総合大学でありながら、家庭的な雰囲気と校友の連帯感を維持できるほどよい大きさである。学内外でそれぞれが切磋琢磨することによって、「明治ですから」の後に「ほかには負けません」を付け加えればよいのである。また、駿河台の盟主としての地歩を固めるために、地域の環境に配慮しつつキャンパスの調和ある統一的な整備を進め、明治の個性(CI)を明確にしなければならない。他者の後追いの段階から、オンリーワン、すなわち棋界随一の時代をいよいよ迎えるために不可欠である。
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