「明治大学広報」
 
第561号(2005年9月1日発行)
◆卒業生特集 21世紀型の大学を目指して
  ―研究・知財と教育の情報化への取り組み
  〇明治大学 研究・知財戦略機構設立について
 さる7月27日に第1回研究・知財戦略機構会議が開催され、本学の新しい研究知財体制がようやく始動することになった。大学間に競争的環境を生み出そうとする国の基本政策はすでに何年も前から構想され、着実に具体化されてきていることを考えると、本学の対応がこれまで十分であったかは反省されねばならないであろう。3研究所を中心とする研究組織体制はあくまでも学内に目を向けたものであり、競争的環境のなかで政策的に研究を組織していくために根本からの改革が求められていた。また、知的財産に関する本学の組織体制も、技術移転やベンチャー養成の点で前進はしているが、大学全体の教育・研究との連携は進んでおらず、その活動は限定されたものになっている。研究・知財戦略機構はこのような閉塞的な状況を打破し、学長を中心とした組織体制を確立し、さらに全学的視点から本学の研究知財の展開を政策的に推進するために設立された。

 本学の研究は厳しい評価にさらされている。平成17年度科学研究費補助金の配分(採択内定時)を見ると、配分対象1074機関の内、補助金総額で本学は129位、採択件数で100位に甘んじている。科学研究費とは、「あらゆる学術研究を格段と発展させることを目的」として、国が「ピア・レビューによる審査」を経て交付する「競争的研究資金」である。本学に交付された総額は1億5979万円(89件)であるが、ちなみに早稲田大は14億916万円(503件)、中央大は2億6530万円(112件)となっている。このような状況のなかで、本学は今後、採択件数を増やす抜本的政策を考えていかなければならない。また、補助金のうちの間接経費が低い水準(369万円)に留まっている状況を脱するには、科学研究費補助金のなかでも基盤研究(S)や(A)などの補助金額の大きな大型研究を政策的に実現しなければならない。そのためには、研究中心の人事などが行えるような新しいシステムの構築、さらには本学にこれまで展開していない研究分野の導入などの戦略的構想が必要である。

 さて本年7月に「大学知的財産本部整備事業」の中間評価結果が公表された。それは、これまでの2カ年の達成度に関して、対象34機関をABCのランクでそれぞれ評価したものである。本学はCランク、つまり「体制が構築され、計画を踏まえた取組がはじまっているが、不十分な点もある」というランクに評価されている(ちなみにAランク機関は14、BランクとCランクはそれぞれ10であった)。特にコメントのなかで本学に対して具体的に求められていることは、知財についての教職員に対するきめ細かな啓発活動や、大学の規模に見合った知財の活用実績などである。これまで本学の知財本部は組織の上で法人の下に置かれていたために、知財整備事業が特許取得やベンチャー養成にのみ集中し、知財の開発と活用の点で十分ではなかったのではないだろうか。本年6月に発表された国の『知的財産推進計画2005』によれば、知的財産には著作物の他に、例えば映画・アニメ・音楽さらにデザインなども重視されており、文字・画像・映像・音声等によるコンテンツの開発と、それらの教育や社会への活用・還元が強く求められている。知財というと理系を中心に考えられがちであるが、そのような見方は払拭しなければならない。本学では100コンテンツ構想が進んでいるが、一層の展開のためには、文系教員の積極的参加が必要であるし、本学以外の他の専門機関との連携も視野に入れるべきである。また、開発されたコンテンツを教育に活用することや、出版等を通じて積極的な社会還元に努めなければならない。著名出版社との連携も模索すべきである。さらにコンテンツの開発には学生の若い知性が必要であり、大学院はもとより学部での人材育成を含めた総合的取組について、機構はその旗振り役を担っていかなければならない。

 このように課題が山積するなかで、研究・知財戦略機構の船出は楽観を許さないものがある。しかし、知恵を結集し、大胆な制度改革に取り組む気概を持つならば、この難局を乗り越えられるであろう。各方面のご理解とご協力をお願いしたい。

(研究企画推進本部長、学長室専門員・井戸田総一郎=文学部教授)
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