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明治大学広報
第598号(2008年8月1日発行)
特集「グローバルCOEプログラム」
「楽しい」と感じる時、脳はどのように働いているのか?
高速道路の自然渋滞はなぜ起きるのか?
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現象数理学が対象とする研究事象
 20世紀から21世紀に入り、実験、観測技術の急激な発展により、社会、生命現象などの解明という難問に対して、精緻で大量のデータの収集が可能になり、その現象を構成する要素の正体が明らかになってきました。これまで見えなかったものが見え、知ることが出来なかったことがわかるようになったのです。

 しかしながら、膨大な要素間の複雑な“絡み”が明らかになることから、現象を理解する難しさがより鮮明になってきたのも事実です。

 今世紀は、この複雑な“絡み”をいかに理解するかが課題になっています。単純な仕組みしか持たない要素であっても、それらがたくさん集まると、その“絡み”によって単なる足し合わせではなく、予想も出来ないような新しい仕組みや現象が現れることはその一例です。

 このような問題に対して数学モデルから迫ろうというのが「現象数理学」です。我々の身近にある事象を挙げてみます。


脳の働き
 私たちが楽しく感じたり、あるいは不安になったりするのは脳が働いているからです。その脳は多くのニューロン(神経細胞)が巨大なネットワーク(絡み)を形成していることから出来上がっています(小脳だけでも1000億個以上)。脳の複雑さは、いくら1個のニューロンの働きを調べてもわからないため、多数のニューロンの“絡み”を調べることが重要なのです。その解明には、脳機能、人工知能、認知心理学など多岐にわたるアプローチが必要であり、そこには数学モデルが重要な貢献をしているのです。


高速道路で起きる自然渋滞
 お盆の時期になると、帰省ラッシュで高速道路では渋滞が数十キロに及びます。渋滞の多くは、事故車や道路工事が原因ではなく、車の数が増えたことによる自然渋滞です。不思議なことに、このような渋滞は東名高速道路であっても、ロサンゼルスからのハイウエー405号線でも同じように起こっているのです。通常の運転者は、法定速度内で車間距離が長くなると加速し、短くなるとブレーキをかけるという単純な作業をしていますが、車の数が増えると、なぜ渋滞が起こるでしょうか。このような交通流の研究は自動車が普及し始めた1950年代にさかのぼりますが、そこには数学モデルとコンピューターシミュレーションが大いに力を発揮しています。


バクテリアのコロニー形成
 バクテリアは食べ物を腐らせたり、病気を引き起こしたりすることから怖い存在として知られていますが、我々の生活に役立ってもいます。身近なものに、ヨーグルトとなる乳酸菌や納豆菌、我々の腸内に住んでいる大腸菌があります。バクテリアは栄養源を取って成長し、細胞分裂を繰り返すことでその数を増やし、やがて密集したコロニーを形成します。バクテリアの中で納豆菌の親戚のような枯草菌は、栄養源が少なく、動きにくいという劣悪な環境条件になると、栄養源との接触となる境界を出来るだけ長くするように、コロニーの形は非常に複雑な形状を採ります(図1)。脳や神経細胞を持たない枯草菌が、その数が多くなると、少ない栄養源を出来るだけ効果的に取れるように、どうして複雑な形状を採ることができるのでしょうか。この問題に対しても、数学モデルがその仕組みの解明に貢献しています(図2)

 以上、わずか3つの事象でしたが、共通しているのは、その場面に登場している要素の数が多くなると、不思議な現象が現れるということです。このような現象は、この他にも自然、社会、経済などのさまざまな分野においても現れます。我々を取り巻く複雑で不思議な現象を解明するという「現象数理学」をさらに発展させ、明治大学において「社会に貢献する数理科学」の確立を目指します。






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多数のニューロンの“絡み”を解明する


渋滞の原因の多くは事故や工事ではない


図1 劣悪な環境条件下で枯草菌が示す樹枝状コロニーパターン


図2 同じ条件下で数学モデルが示す樹枝状コロニーパターン

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