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《卒業特集》 答辞 卒業生代表 文学部 史学地理学科 田中 義隆

風は、すでに変わっています。冬の風は春の風に変わりました。今日ここにご列席くださった学長、理事長、諸先生方、ご来賓の皆さま、2010年度明治大学卒業生のためにこのような素晴らしい旅立ちの場をご用意していただき、誠にありがとうございます。卒業生一同、感謝を申し上げます。

まず、私たちの大学生活を見守り、支えてくださり、素晴らしいものにしてくださった、先生方、家族、友人たち、すべての方々に、心からの「ありがとう」を伝えたいと思います。皆さまの支えがなければ、私たちの豊かな学び、素晴らしい経験はありませんでした。本当にありがとうございました。

今、多くの人々が、苦しみの中にいます。光の見えない暗闇の中で、希望を見つけることが難しくなっています。厳しい状況の中で就職活動を続けている友人たち、未来に希望を見いだせない人々、そして、3月11日に発生した東北関東大震災によって、大きな被害を受け、苦しみのさなかに閉じ込められている人々がいます。今、私たちの周りに、私たち自身の中に、多くの苦しみがあります。自分の中の苦しみとの戦いの中で、他の人々の苦しみにまで思いを馳せることが難しくなっています。

しかしだからこそ、今、私たちは人々の苦しみに対して、目をそらしてはならないはずです。私たちは明治大学で「個」を尊重する姿勢を学んだはずです。だからこそ、今私たちは、自分以外の人々の「個」を尊重し、苦しむ人々に目を向けなければならないはずです。私たちは「個」というものに対して、義しい考え方を持つよう努めなければならないはずです。「正確」という意味の「正しい」ではないはずです、人としてあるべきあり方という意味の「義しい」であるはずです。

『星の王子さま』で知られる作家・飛行家のサン=テグジュペリの著作『人間の土地』の中に、このような言葉があります。

「長い年月、人は肩を並べて同じ道を行くけれど、てんでに持前の沈黙の中に閉じこもったり、よしまた話はしあっても、それがなんの感激もない言葉だったりする。ところがいったん危機に直面する、するとたちまち、人はおたがいにしっかりと肩を組みあう。人は発見する。おたがいに発見する。おたがいにある一つの協同体の一員だと。他人の心を発見することによって、人は自らを豊富にする。人はなごやかに笑いながら、おたがいに顔を見あう。そのとき、人は似ている、海の広大なのに驚く解放された囚人に」

今、明治大学を卒業する私たちは、明治大学で「個」を尊重する姿勢を学んだ私たちは、その姿勢を試されています。風は、すでに変わっています。冬の風は春の風に変わりました。私たちは明治大学の卒業生であるということを誇りにして、人として義しい道を歩んでいかなければならないはずです。暗闇の中に光を見出し、松明を掲げなければならないはずです。私たちには、それができるはずです。

私たちの明治大学がこれからも、「個」に対する義しい考え方を持つことができる人間の創造を担っていくことを願い、謹んで答辞とさせていただきます。ありがとうございました。

※卒業生代表の答辞を全文掲載