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本棚 「オープンスカイ・ディプロマシー」 アメリカ軍事民間航空外交 高田馨里 著 (有志舎、5,000円)



アメリカ合衆国は第二次世界大戦を通じて、戦後世界秩序構築に関して良くも悪くも中心的役割を担うことになった。本書は、戦後世界秩序の重要な一側面である国際航空秩序形成に焦点を当て、その問題に関するアメリカの政策決定過程、米・英・ソ・コモンウェルス 諸国間の外交交渉過程を詳細に検証し、シカゴ=バミューダ体制と呼ばれる戦後西側国際航空秩序の形成と、冷戦の勃発と大きく関わる東西の空の分断がいかにして起きたかを明らかにするものである。

本書の白眉は言うまでもなく膨大な公文書を用いた政策決定過程・外交交渉過程の分析にあるが、筆者が注目したいのは、真珠湾攻撃によって崩壊した「無償 の安全保障」観に代わる「一つの世界」像が、教育、報道、広告などありとあらゆる媒体を通じて流布されることによって、新しい世界認識が生まれたことを明 らかにした点である。本書は、その世界に暮らす人々の世界観そのものの変容が、新たな秩序構築の根底にあることを改めて想起させてくれるのである。

藤田怜史・文学部助手

(著者は文学部兼任講師)