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本棚 「言語機械の普遍幻想」 西洋言語思想史における「言葉と事物」問題をめぐって 浜口稔 著(ひつじ書房、10,290円)



カントは『純粋理性批判』の中で、我我の認識と対象のあり方について、これまでは認識が対象に従うと考えられてきたが、逆に対象が認識に従うと考えてみたらどうだろうか、と述べている。いわゆる「コペルニクス的転回」であるが、そう言われてみると、たしかに、我々が見ている対象は物それ自体ではなく、我々の認識(具体的には言葉)によって色づけられ、場合によっては歪められたものなのではないかと思われてくる。さらにその考えを進めると、我々が物と呼んでいるのは、実は言葉であるというふうにも思われてくる。しかしそこまで考えると、言葉とは何かということが、あらためて問題になる。言葉とは何かという問いは、哲学全体をその中に含む大変な問いであることに、我々はあらためて気づく。

著者は、この大変な問いに果敢に取り組み、その大変さに相応しい広い視野と行き届いた考察によって、プラトンからチョムスキーまでの言語思想の歴史を興味深く描き出している。哲学史上の重要人物に次々と新しい角度から光が当てられてゆくのは、とても楽しく、スリリングである。

美濃部仁・国際日本学部教授

(著者は理工学部教授)