Go Forward

2012新春座談会 明治大学は「世界へ」

グローバリゼーションの急速な進展により「国家」の位置づけも変わりつつあるなか、日本の大学のあり方も変化が求められ、国際的視野で物事を考え、世界で活躍できる人材の育成が急務とされている。明治大学では、国際社会で通用するトップスクールを目指し、教育・研究の変革を推進している。世界へ—『個』を強め、世界をつなぎ、未来へ— 今後、明治大学の国際戦略はどのように展開されるのか。来日中だった北京大学の呉志攀常務副学長をお客様にお迎えして、勝悦子副学長(国際交流担当)の進行のもと、土屋恵一郎教務担当常勤理事、坂本恒夫副学長(研究担当)が語りあった。

明治大学の国際戦略

副学長(国際交流担当) 勝 悦子(かつ・えつこ) 慶應義塾大学経済学部卒業。茨城大学人文学部社会科学科助教授などを経て、1998年明治大学政治経済学部助教授。2003年同教授。2008年国際交流担当副学長。2009年10月より国際連携本部長。 教務担当常勤理事 土屋 恵一郎(つちや・けいいちろう) 1946年生まれ。1970年明治大学法学部卒業、1977年同大学院博士課程単位修得退学。1978年同専任助手、1993年同教授。法学部長、国家試験指導センター所長など歴任。2008年より教務担当常勤理事。 北京大学常務副学長 呉 志攀先生(ご・しはん)1982年北京大学法学部卒業。1985年同大学院修士修了。1988年北京大学教授。法学博士。2002年北京大学副学長。2010年1月より北京大学常務副学長。 副学長(研究担当) 坂本 恒夫(さかもと・つねお)1947年生まれ。1971年中央大学商学部卒業。1979年明治大学大学院博士課程修了。1991年明治大学経営学部教授。経営学部教務主任、知的資産センター副センター長、教務部長など歴任。2008年より研究担当副学長。



   明治大学は学長をトップとする国際連携機構を2009年10月に設置し、文部科学省の「グローバルCOEプログラム」(2008年度)、「国際化拠点整備事業(グローバル30)」(2009年度)に相次いで採択されたことを契機に国際化が進展しています。2011年の創立130周年のテーマは「世界へ」で、現在1200人の留学生を受け入れており、英語だけで学位が取れるプログラムも確立しました。グローバル人材育成が注目されている中、留学生の受け入れだけでなく、送り出し強化や、研究交流、大学院交流も進める必要があります。日本政府も非常に力を入れています。

本日は来日中の北京大学副学長の呉志攀先生をお迎えしました。まずは北京大学の国際戦略についてお話を伺いたいと思います。

北京大の国際戦略


   今回はじめて明治大学を訪問をさせていただきとても光栄です。まず北京大学長に変わり創立130周年のお祝いを申し上げます。そして今までの北京大学と明治大学の交流に感謝申し上げます。

この2日間、明治大学や大学の周辺を巡りましたが、学生には活気があって、設備も整備されている。研究者のレベルも高く驚きました。

中国は世界の中で最も大きな発展途上国としてこの30年、発展開拓を続けて参りました。そしてこれからは世界の中で責任を背負わなければいけないと考えています。北京大学は中国の首都にある大学であり、東京と同じように大使館、外資系企業があり国際交流が盛んな場所に位置しています。

学生の第1外国語は英語で共通語になりつつある勢いです。日本語は2番目に人気です。私も修士課程で日本語を履修しましたが、使っていないので、忘れてしまいましたが(笑)。北京大には4000人の外国人留学生がおり、世界の270大学と交流しています。日本では明治大学の他に、東大、早大、慶応ほか10数校と関係があり、300人以上が長期で研究滞在しています。

北京大の国際戦略としては、学部の4年間のうち1度は留学を義務付けています。研究生には海外で研究して欲しいですね。私たちの大学で学術をもって解決しなければならないと思っている問題は、すでに人類が直面している社会的な問題です。地球規模の問題の解決を目指しています。

例えば医学で北京大は、造血幹細胞の研究が有名です。スポーツ医学でも国内のトップクラスです。またバイオテクノロジー、ナノテクノロジー、こうしたレベルでもおそらく日本と引けを取らないレベルにあると思います。化学においては東大に次ぐアジアでのレベルですし、この数年で追い抜くかもしれません。数学においても全国トップで、法学、歴史、文学もトップレベルにあります。

中国では大学が多く、法学だけでも620校の大学がありトップクラスに居続けるのは難しいことですが、厳しい中でトップを維持し、世界に貢献できるよう研究しています。

明治大学のように優秀な研究者がいる大学と交流ができることは光栄ですし、皆さんが訪中し交流できることを愉しみにしています。直近で明治大学とは、「手塚治虫」のマンガ講座を通じて交流し本当に素晴らしかったです。明治大学を見ていると、柔軟な戦略で、機敏に、時代に並んで歩いていると感じています。北京大の歴史が113年、明治大学は130年、歴史ともども、17年先を行っているような感じです。一団となって同じ方向に進む。学長、副学長が同じ方向性を持って進むスタイルは本当に素晴らしいと思います。

本年は北京フォーラムがありますが、40カ国から400人を招待します。中国の国家指導者も参加しますし、皆さんにもぜひ来て頂きたいと思います。

土屋  明治大学は昨年、創立130周年を迎えたのですが、国際戦略を考えたのは、つい最近の話でありそういう意味では、未来について語るしかありませんが、未来のことについて私たちは多くの事を語ることができます。その未来の出発点、未来を語るキッカケになったのは北京大との関係です。とりわけ日本のポップカルチャーの研究が大きな未来の文化を語るために、明治大学と北京大が共にやっていく事ができることではないかと思っています。ポップカルチャーは、学生たちには共通の言語であり、感覚であると思います。

今までの例としては、GCOEが大きな役割を果たしました。ここには、日本におけるトップクラスの数学者が集まり世界の数学者との交流を行っています。社会や生物、他の領域に応用できる数学の研究で明治大学がいま日本のトップです。

そういう意味で数学の分野でも一緒に研究できるのではないでしょうか。

古代史では既に北京大と共同研究が行われています。またマレーシアで理工学部は共同研究をしていますし、来年4月にはタイのバンコクに明治大学のアセアンセンターを立ち上げます。これはバンコクの大学との共同研究のための連携プロジェクトでもあります。韓国でもITの共同研究をしています。ファッション・ビジネスにおいても国際的プロジェクトが始まりました。そういう意味で語るべき未来に大きな期待を乗せて、現象数理学やポップカルチャーなど新しい領域を起点に協力体制を広げていきます。

まんがを通じて

   北京大にはアニメ学部と修士課程があります。国内でいくつか賞を取っている学部で、中国や北京でもアニメ監督などが教えています。

その外国語学院は、大学が建設しているビルに引っ越すのですが、ビルの資料室1フロアに、明治大学のマンガ図書館分室を置かせていただく予定です。

北京大には800人が在籍するアニメサークルがあり、北京大の中で2番目に大きなサークルとなっています。さまざまな学生が所属していて、毎回、アニメ講座のときには手伝ってくれます。私も興味があるので、時間があるときは聴講しました。手塚監督や冨野監督は世界の財産であると思います。「世界を変えた」という意味で2人はスティーブ・ジョブズと同じだと思います。

たとえば鉄腕アトムで中国人は勇気づけられましたし、宮﨑駿監督の千と千尋のヒューマニズムでは、人間の良いところが描かれていて素晴らしい。価値観が言葉ではなく絵によって表現されています。

アニメは見れば分かります。まさに土屋先生のいう共通言語であり、音楽と一緒で、国境を超える力があると思います。明治大学がマンガのアーカイブ図書館をつくることは本当に意味があり、その蔵書を北京大に置いて下さるのはたのしみです。

私たち中国にも素晴らしいマンガや作品がありますので、私たちもぜひ寄贈したいと思います。

研究交流の深化を目指し

坂本  北京大学は2度、訪問しました。周学長にお話をうかがい、北京大のほうが研究では素晴らしい実績を上げてるということが分かり私たちは大変敬服しました。

明治大学も「世界へ」情報発信ができるイノベーション拠点になりたいと考えており、納谷学長の強力なリーダーシップのもと、研究拠点になるべく駿河台キャンパスに研究ラボタワーを建設中です。ここには大学院、国際連携機構、研究・知財戦略機構、さらに国際総合研究所が入る予定です。

医療技術の評価研究も始めますし、数学やバイオリソース研究も展開します。

是非、北京大からも色々と教えてもらいながら、研究を通じて連携を深めていきたいと考えています。

土屋  中野に2013年に新キャンパスをつくります。そこに国際日本学部と総合数理学部(仮称・新設)の2学部、建築の国際コースなど、複数の研究科および研究機関が展開します。日本の建築界の重要な位置は30代の明治大学出身者が占めています。彼らは中国でも仕事をしていますので、北京大学の教員や学生達とも交流できるのではないかと思います。私は昨年、ボストン、MIT、ハーバードのデザインスクールへ行き、これから連携とっていけると確信しました。私としては、ITと建築、ポップカルチャーを重ね合わせたラボを中野につくりたいと考えています。

それは過去の世界でなく、未来のプロジェクトであり、広げていきたいと思ってます。

多くの優秀な教員や卒業生の力を結集して、中野をアジアにおける先端研究のセンターにできれば、とても素晴らしいと思います。

そして、そこが北京大とも連携できるようなIT分野や建築分野における研究場所となれば、なおのこと素晴らしいと考えています。

   もちろん海外の学生も受け入れます。明治大学は、食と住を兼ね備えるインターナショナルハウスが狛江に設けてありますし、優秀な留学生には学費減免措置もあります。

中国と日本 北京大と明治大学

   最近日本の大学は、「世界展開力」強化のためダブルディグリーで連携を強める動きがあります。

なかでも中国の大学は急速に伸びていて、ランキングでもかなり上位にきています。呉副学長はそのことをどのように見ているのでしょうか。また、これから日本の大学と、さらに北京大と明治大学とどういう関係をつくっていきたいかをお伺いしたいと思います。

   北京大の物理学は、ハーバードの論文数を超えました。引用数はまだかないませんが数は追いつきました。でも中国は数(人口)が多いですから(笑)。これからは質を高めることが課題です。

日本の重要な学術論文雑誌は中国でも重要な学術論文雑誌として認められています。

大学の学術委員会が集まって世界の大学の学術雑誌をリスト化していますが日本のものも多いです。また、こうしたものは世界への影響力があります。車のエンジンなど日本の工学雑誌も素晴らしいです。

そういう分野においては、もっと多くを学び、日本の研究と、中日の利点を活かした交流をしたいと思います。例えばアニメの制作は中国ですし、フィギュアも中国で作っています。中国のコストは高くない。医学コストも安い。眼鏡のフレームは10元くらいです。日本のデザイン力と中国の力、両者の強みを活かして何かができればと思います。

土屋  明治大学に期待する研究分野として何を考えられますか。

   数理学、これから始まる医療評価も興味があります。もちろん建築デザインやポップカルチャーでも同様に考えています。

   北京大学とは学生交流でもさらに連携を強化していきたいと思います。今日はありがとうございました。謝々。