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本棚 「戦後日本の親族関係 核家族化と双系化の検証」 施利平著



本書は、厳密な分析にもとづいて戦後日本における家族の本質的な変容を示している。このような議論のキーワードは家父長制の崩壊であり、核家族化の進展だ。つまり、結婚後の親元からの独立、夫方中心から妻方も含めた親族関係の双方化が、戦後の大きな変化と考えてしまうのである。こうした通俗的な解釈を、本書では批判的に再構築している。綿密な量的・質的調査の結果から判明した事実は、今日もなお制度面では直系家族的な要素が強いこと、そして娘や妻方とのつながりは情緒面において元から緊密であり、兄弟数の減少によって活性化したことだ。戦後日本の家族の変化は、この情緒的側面の活性化に注目すべきだと著者は指摘する。我々はともすると、戦後の日本社会が大転換したものと断定しがちだ。しかし、根本的な部分でどのような変化が生じているかは、地道な検証作業を積み重ねなければ判断できない。本書は、家族という誰でも論じられるテーマを題材に、このような基本的な研究姿勢の重要さをも示した好著である。

江下雅之・情報コミュニケーション学部教授
(著書は情報コミュニケーション学部准教授)