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本棚『俳優と超人形』 武田 清 訳(而立書房、1,500円)



クレイグは、上演現場の人間であった。アーヴィングの舞台にも立ったが俳優としての評価はさほど大きなものではなく、演出家としてはモスクワ芸術座による「ハムレット」が知られているものの、これはスタニスラフスキイとの共同演出であり、クレイグの意図が実現した作品とは言い難い。劇作家でもなかったクレイグは、著述家として演劇の歴史に刻まれたのである。小山内らによる抄訳でしか読むことができなかった彼の論が、一世紀以上の時を経て、初めてここに翻訳された。

クレイグの著作は、難解といえば聞こえがいいが、自家撞着というか唯我独尊というか、読む者のことなど念頭にないかのようである。『俳優と超人形』も、これまで俳優否定論であるかのように思われてきた。しかし本書を読めば、タイトルから想起されるものとクレイグの主張に差異があることは明らかとなる。演出家の重要性を説いた『第一の対話』、演劇大学、ナショナル・シアター建設を唱えた『第二の対話』も掲載されている。その先見性に驚かされる本だ。

岸田真・文学部兼任講師(訳者は文学部教授)