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海外メディアも注目する明治大学黒川農場 7カ国12人の記者集まる

各国メディアの質問に応える玉置教授

収穫した野菜を消費者の視点で調理し食べることも研究 ツアー前の事前説明をする竹本教授

生産者毎に値段も大きさも異なる野菜が並ぶセレサモス 親子三代にわたり都市農業に取り組む小泉さん御一家

明治大学は8月3日、フォーリン・プレスセンターが主催する海外プレス向けツアー「農業新時代—若い力が創る持続可能な強い農業」で、ブリーフィングおよび黒川農場の取り組み紹介を行った。

このツアーは、新鮮で安全な農産物の都市住民への供給のみならず、災害に備えたオープンスペース確保、ヒートアイランド現象の緩和といった機能や効果も備えた都市農業。首都圏という一大消費地のなかで、需要に合わせた生産・販売や付加価値を高めたビジネスを展開する川崎市の都市農業の取り組みに焦点をあてたもので、7カ国、中国、台湾、シンガポール、スイス、フランス、ドイツ、カナダから、メディア10社、12人の記者が参加した。

ツアーに先立ち、農学部の竹本田持教授が、日本農業の現状と都市農業の可能性についての説明を行った。竹本教授は、農業従事者は年々減少しているものの、一人あたりの収入は増えていることなどを示し、日本の農業が必ずしも弱くなっているわけではないと指摘。特に都市農業については、少ない土地で高収益を上げていると紹介した。また、おしゃれな農業のイメージを作りつつある若い農家への期待を示すとともに、生産者が付加価値を高めることで収入を増やす可能性などについて、川崎市の実例を踏まえながら説明した。

続けて一行は、実際に若者が農業に取り組む現場を取材するため、日比谷公園(東京千代田区)に隣接する同プレスセンターからバスで黒川農場(川崎市麻生区)へ30分程かけて移動。農場では玉置雅彦農場長(農学部教授)らが対応にあたった。記者から、学生の卒業後の進路に関する質問に玉置農場長は「農業のイメージが変わりつつあり農学部の人気は高いものの、卒業してから農業そのものに就く学生は少ない」と述べ、その理由として、就農した場合と一般企業に就職した場合の収入差をあげた。記者たちは施設見学の後、農場実習で収穫、調理された野菜を囲み、学生たちと一緒に昼食を共にした。学生たちは、記者の就農意識などの質問に、通訳を介さず対応していた。

その後、JAの直売所セレサモス(川崎市麻生区黒川)を訪問。オープンした2008年度は3億7000万円だった売上金額が、昨年度は6億円を超えるなど、年々売上金額を伸ばしているセレサモス。農産物を販売する農家には1日4回、売上状況のメールを配信し、消費者の反応を随時知らせている。JAセレサ川崎の畑功・都市農業振興課長は「セレサモス開業から5年目を迎え、川崎市では耕作放棄地が減少し、農業の担い手の増加が顕著に見られる」と報告した。セレサモスに農産品を出荷している地元農家の市川完治さんは「息子たちが、継いでみたいと思えるような農業を展開したい」と都市農業を継続させることへの意欲を語った。

最後に、住宅地の中で、親子三代にわたり都市農業に取り組む小泉農園(川崎市宮前区)を訪ねた。農産物だけでなく野菜やハーブを使用したお菓子やジャムなどの加工品も製造・販売し、セレサモスでも売上げ上位に入る小泉農園。取材に対して小泉博司さん(34)は、「住宅に囲まれていることで農作業の様子を見られることがかえって信頼につながっている」と都市農業の利点を説明した。父の富生さん(62)は、「先祖代々から受け継いできている農地を今後も守るため、有機肥料を使用する際には放射性物質の検査など、安全性の確認ができたものだけを使用する」と話した。祖父で小泉農園代表の正博(87)さんは、「若い人たちに囲まれ幸せだ」と一家全員で都市農業に取り組む喜びを語った。

フォーリン・プレスセンター(FPCJ)
外国プレスの日本取材や、日本から外国へのメディアを通じた情報発信を支援する組織。日本新聞協会と経団連(現在は日本経団連)の共同出資により1976年に財団法人として設立された。以来、日本の実情を海外に正しく理解してもらうため外国の報道関係者の日本取材を支援しており、2011年から公益財団法人に移行された。