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明治大学が所蔵するお宝 No.120901 宮澤賢治『心象スケッチ 春と修羅』

寄贈新刊書紹介「明治大学学報」93号(1924・8)より



和泉図書館所蔵「日本近代文学文庫」には、宮澤賢治の処女詩集『心象スケッチ 春と修羅』の初版本が2冊収められています。1冊は、仏文学者・元図書館長である佐藤正彰氏の寄贈書の中に含まれていたもの、残る1冊は著者である宮澤賢治本人からの寄贈書です。

『春と修羅』が東京の関根書店から刊行されたのが大正13(1924)年4月、本の標題紙には「大正13年5月17日 著者殿寄贈」と寄贈印が押されています。その前年の大正12(1923)年9月1日、関東大震災により東京は大きな被害を受け、駿河台にある本学図書館も貸出中のわずか71冊の図書を除いてすべての蔵書が焼失しました。

図書館は蔵書を充実させるべく、日本の内外に向けて図書の寄贈を呼びかけました。国内の大学や個人はもとより、遠い海外からもたくさんの図書が寄贈され、これらの図書は震災後の明治大学図書館の再出発の礎となったのです。

当時の「明治大学学報」には「図書館報告」という頁があり、学報第93号(大正13(1924)年8月号)の「寄贈新刊書紹介」欄に宮澤賢治寄贈『春と修羅』が紹介されています。

当時無名に近い作家であった宮澤賢治が、どのような意図を持って初めての著書を寄贈したのか、今となっては推測することしかできませんが、この“著者殿寄贈”『春と修羅』は、その後一世紀近くもの長い間、図書館の書架に並び、多くの利用者に読まれ貸し出されました。布製の表紙は色褪せ、綴じ糸は切れかかり、危うく除籍・廃棄の憂き目に会うところを救い出されて「日本近代文学文庫」に収められたのです。