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本棚『遣隋使がみた風景—東アジアからの新視点』 氣賀澤 保規 編著(八木書店、3,800円)



群れなして荒波わたる遣隋使。607年、聖徳太子は小野妹子を隋文帝時代の中国へ派遣した。それが「第一次」でなく600年にも遣隋使が送られたことは、中国の資料にちゃんと記載があり、学界では主流見解になりつつある。それなのになぜ607年説はこうも強いのか?

本書は、通説で遣隋使1400周年にあたる2007年に本学で開催されたシンポジウムに基づく。遣隋使を日本史の文脈からでなく東アジア全体の動向から考える企画は新鮮で、当日の会場は大盛況であった。その成果に朝鮮史・日本史の専門家の見解を加え、より多面的な理解を目指したのが本書である。80頁に及ぶ付録も本書の一大特長である。関連文字資料・図像資料の網羅が図られており、当時の国際関係や社会風俗をも明示するものに仕上がっている。これらの作成にも頭の下がる思いがする。

遣隋使研究の地平とも集大成とも言える本書は、歴史好きの読者諸氏を満足させ、また、複眼的な歴史研究の手法を示す。607年説がいまだ根強い理由も自ずと見えてくるのである。

櫻井智美・文学部准教授(著者は文学部教授)