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本棚『啄木 新しき明日の考察』 池田 功 著(新日本出版社、1,900円)



本書は、国民的歌人である石川啄木の成長過程を活写した労作である。筆者はそれを「反転と反復による成長」と要約する。

たとえば、啄木は小学校の代用教員などで生計を立てていた。これは彼の意識では「兼職」にすぎず、文学こそ「天職」と自覚していた。しかし、いい加減な生活態度を妻に批判されて、彼の天職観は反転する。生活をおざなりにした文学的な生き方を自己批判するのだ。

あるいは、歌集『一握の砂』の冒頭14首には、それまで啄木が著した随筆や小説のイメージが反復されている。海や砂浜、蟹であったり、死や初恋、母であったり。この反復が豊かさを育んでいった。

ところで、啄木は当初、人種哲学的な社会進化論に同調していた。「優秀なる我民族」とさえ啄木は書いた。だが、ここでも啄木は反転する。自分自身が「適者生存」に敗れ社会矛盾に気づき、社会主義に目覚めるのである。

短い生涯の晩年に至って、啄木は「新しき明日の考察」をせよと唱える。「3.11」以降の「時代閉塞の現状」にあえぐ私たちを鼓舞するかのように。

西川伸一・政治経済学部教授(著者も政治経済学部教授)