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今、企業そして大学に求められているもの

理事 向井 眞一

今の日本の現状は、史上まれに見る東日本大震災と原発事故の復興長期化、財政赤字、少子高齢化、厳しい雇用情勢、歴史的な円高、産業の空洞化、長引く低成長とデフレなど、とても厳しい状況下にある。

企業がこれまで大学に求めていた「一定以上の知的水準を保持している人材」や「規範遵守できる人材」だけでは、戦後の仕組みが大きく変わり、世界的規模での構造的(枠組み)大変化が起きている今では通用しなくなってきている。今の企業は持続的な構造変革(イノベーション)の推進や、世界に通用する真の差別性の創造が急務であり、そうした企業のニーズには今までの人材では対応できない。これからは、むしろ、個性的な人材や専門性のある人材、そして、何よりチャレンヂャブルな人材が求められている。

貧富の格差が大きくなったと言われる海外の国と異なり日本は、国民の多くが全体として収入が減り貧しくなっているのが、本当の姿であると言われている。その結果、指導者は、国民の目先ニーズを重視するポピュリズムの傾向を強め、短期的実績作りに奔走する。企業としても同様で、一部を除けば戦後発展のビジネスモデルが崩れ、倒産しないためのリストラや短期業績改善の経営が目立つ。

一方、海外ではリーマンショックなどを引き金に、世界的な信用不安や欧州危機といった、資本主義経済のほころびや、宗教紛争、領土紛争など、新たな武力紛争の火種が各地で燻っている。更には国連環境計画の報告書にあるような、環境問題の深刻化など、将来にわたっての大きな課題を抱えている。こうした中にあって、日本のみならず、世界中の指導者はグローバリビジョンの逆風現象とも言える、内向き傾向になりつつある。

こうした日本のみならず、世界的規模における大きな構造変化、グローバリゼーションと逆行するかのような内向き志向にどう対応するかが、これからの企業にとっても大学にとっても大きな課題と言える。

そのために二つの認識が重要である。一つは、今までのようにモデルとなる正解が無い上に、それぞれが自分の正解を持たなくてはいけない時代になった。そして、変化のスピードが激しいため自分が正解と思ったことが、与件が変わることで、すぐに正解では無くなるという認識である。その解決のためには、本質を見抜く力を培うとともに、本質を見抜く力をつけるための体験のチャンスを与えることである。

二つ目は、構造的な変化は短期的には抵抗しがたく、かといって、それを放っておくと、長期的にはほとんど勝ち目が無くなってしまうという事実である。気づいた時には、もう手遅れになっているという認識である。解決のためには、多様な人材の育成とイノベーションを続けることができるフレキシブルな組織造りである。

これらの課題を達成するために「個別最適化」「全体最適化」「現状最適化」「未来最適化」を、それぞれシナジー効果を発揮させながら推進するマネジメント力が組織に求められる。 大学も企業も、こうした難題に対処するため「強いリーダーシップを発揮できる」組織造りが必要である。それは従来の延長線上のワンマン的なリーダーの存在でなく、質の向上を目指すための「ガバナンスの改革」が大前提になると考えなくてはならないのではないか。