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本棚「チェーホフをいかに上演するか」ディヴィッド・アレン 著 武田 清 訳(而立書房、2,000円)



チェーホフ戯曲ほど演技のありようを直に問いかけてくるものは、他にない。「チェーホフをいかに上演するか」という難題の手がかりを、本書によってようやく得られそうだ。本書は、露米英における20世紀チェーホフ上演史研究を目的としている。第1部を生前のチェーホフとスタニスラフスキーとの衝突から始め、第2部以降のチェーホフ上演史とスタニスラフスキーの「内面的/外面的」演技のテーゼとの接続を明示する。演技論の発展史が抱えることになったバイアスは是正され、通説にはオプショナルな見方が提示される。チェーホフ上演史に纏わる演技論の誤認と承認、拡大と収束—その複雑な地勢を一気に見渡せるではないか。

演技論の明晰な議論が発展していない日本では、本書が演劇研究者や演出家、俳優にとって有益なのは言うまでもない。だが、本書をたのしみに読む一般読者も多いことだろう。なぜなら本書の翻訳が、過去の外国の上演を、今そこにあるように生き生きと感じさせてくれるからである。

藤岡阿由未椙山女学園大学准教授(文学部兼任講師)(訳者は文学部教授)