本棚 『心情研究者としてのゲーテ』田島 正行 著(うぶすな書院、1,800円)



読み終えて、本を閉じる。すると、私自身のことばが動き始める。読後の感動と、筆者の主題を自分のものにしたいという思いとが、思考を促すのだ。いわば、書物との対話が始まる。

訳者の田島氏はクラーゲスとの対話を何度もくり返したはずだ。明晰な日本語訳は長年にわたる研究と対話の深さの成果だろう。

田島氏は後書きでクラーゲスへの違和感を語る。「原形象」に没入する詩人を称揚し、時代精神を具現した賢者ゲーテを批判するクラーゲス。それに対し、氏は「原形象」と日常とを往還するゲーテ的知性が今こそ必要ではないのかと問う。世界資本主義をはじめとしたシステムに私たちが幽閉されている今日、現実をも直視するゲーテ的精神が必要だということだ。だが、システムを越える可能性を見出すには、むしろ、「原形象」の再発見が必要なのではないか、と私は考え始める。

きっと、田島氏とクラーゲスとの対話は終わらないだろう。私は、訳出された二つのゲーテ論と「訳者あとがき」との対話を始めた。魅力的な本である。

鈴木哲也法学部准教授(著者は法学部教授)

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