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「グローバル人材」を考える

国際日本学部長 白戸 伸一


昨今の高等教育をめぐる報道では、「グローバル人材育成」という言葉が踊っている。これは、日本の経済力の相対的低下や日本人留学生数の低下傾向等に危機感を抱いた経済界や政府、教育機関関係者たちから多く発せられている。ではこの「グローバル人材」とはいったいどういう人のことを言い、大学はそのこととどう向き合うべきなのだろうか。

国際舞台で活躍できる人材というイメージから、語学力、高学歴、あるいは交渉力などをもった人材が連想されるかもしれない。『日経ビジネス』編集長の山川龍雄氏と池上彰氏との対談で、山川氏はdiversity(多様性)を理解し対応しうる能力を指摘し、池上氏は、日本の良さも自覚した上で多様性を受け止められる教養人たることを指摘している。国際協力機構(JICA)特別顧問の緒方貞子氏は、画一的にものを考えず多様な価値が理解でき、多様な対応ができる人、とみている。いずれの論者も、グローバル人材が多様性への理解力と対応力を備えていることを指摘している。確かに、地球上には異なった言語、文化、宗教、経済発展段階、国家体制、社会システム等が存在している。その一方で科学技術の発展により人類全体の結びつきはさまざまな分野で強まり、相互依存関係も深まっている。従って、この“多様性”の理解とそれへの対応がますます求められていると言えよう。しかもその対応においては、地球環境を維持しつつ、人類の平和的共存と豊かさの享受に繋がるものでなければならない。

このようなグローバル人材となってゆく第一歩は、世界が多様であり、自国がそのひとつとして独自性を持ったものであることを知ることではないか。その意味で留学は貴重な機会となろう。日本からの留学事情を見ると、2004年の約8.3万人をピークに減少の一途を辿り、2010年には5.8万人だった。2013年のOECD教育報告でも、高等教育機関に在籍する日本人のうち国外で学ぶ学生は1.0%で、34加盟国中の下から2番目。アメリカ留学者数は、中国、インド、韓国が大きく日本を上回りつつ増加し、日本は減少してカナダ、台湾より下位になっている。18歳人口の停滞を加味しても減少は著しい。なぜ減少したのか。一般的には、経済問題(保護者の所得の低下と留学先授業料の上昇等)、語学力(TOEFL等での足切り)、就職活動(3年次の就活)、あるいは学生の「内向き傾向」等が挙げられている。

この点でわが明治大学はどうか。2009年にG30=国際化拠点大学に選定されて以降、積極的に海外からの留学生受け入れと送り出しに務め、世界の交換協定校は130を超えている。その中で、2008年開設の国際日本学部では、毎年百数十人が海外で学んできており、今年度も学部独自のセメスター留学を中心に147人が留学している。学年定員350人の学部としては少なくない。オープン・キャンパスやゼミナール大会で、生き生きと英語でスピーチしている学生たちの中には、しばしば留学や海外生活を体験した学生たちが含まれている。指摘される日本人学生の「内向き傾向」とは異なった活気を感じる。

「何のために働くのか」と問いかけた寺島実郎氏が、カセギ(経済的自立)、ツトメ(社会参加・貢献)に加え、「歴史の進歩のため」と回答している。学生たちが、グローバルな視野でこのことを考えることを期待したい。

(国際日本学部教授)