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地域産学連携研究センター ICTによる農業支援システムを実用化

小沢特任教授(右)と佐々木社長=黒川農場のZeRo.agri前で

明大の研究者と地域の企業が連携して研究・開発を進め、新技術・新事業の創出を目指す「地域産学連携研究センター」で、研究の成果が実を結び始めている。同センターに入居するベンチャー企業「ルートレック・ネットワークス」は、小沢聖特任教授(黒川農場)との共同研究で、情報通信技術(ICT)による農業支援システム「ZeRo.agri」の開発に成功。5月末に製品化し、今秋、群馬県と岩手県の中規模農家へ納品した。

ZeRo.agriは、小沢特任教授が研究を進める環境調和型農法「養液土耕栽培」と、ルートレック社の機器と機器をつなげる情報通信技術を活用した製品。ハウス内に設置した複数のセンサーから日射量、土壌水分、気温、地温などの情報を集め、クラウド(ネットワーク上のコンピュータ)に送信。小沢特任教授とルートレック社の産学連携チームが開発したプログラムによってクラウド上で最適な水や肥料の量を計算し、ハウス内の電磁弁を開閉して自動で培養液を供給することができる。ハウス内で計測されたデータは、タブレット端末でいつでもどこからでも確認することができ、生産者はこのタブレットのアイコンを上下に動かすだけで、培養液の量と濃度を簡単に調整することができる。

通常こうしたシステムを導入するには多額の初期投資が必要だが、明大の産学連携チームはクラウド環境を利用することでコスト削減を実現。栽培技術の継承に悩む中小規模のハウス農家が利用しやすくした。

ルートレック社の佐々木伸一社長(1980年工学部卒)は11月8日に駿河台キャンパスで行われたリバティアカデミー講座に登壇し、約70人の来場者を前 に、「農業に休日を!」と題して講演。高齢化しても持続可能で、効率的な農業事業として同システムを説明し、「このシステムを利用すると、これまで勘と経 験に頼ってきた作物の生産と品質管理がデータ化され、後継者への伝承が容易になるほか、収穫量の増加や品質の向上が見込まれる」とメリットを語った。

明大の産学連携チームは同システムを活用した復興支援も開始。震災でハウスが全壊し、息子を失った岩手県陸前高田市の農家にZeRo.agriを導入し、 孫世代への技術継承を支援。岩手大学とも連携したこの取り組みは、農水省の「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」にも採択された。

地域産学連携研究センターは昨年4月に生田キャンパスに開設したインキュベーション(新企業育成)施設。本学の研究成果の事業化などを目指す中小企業が入 居することができ、現在、ルートレック社の他、半導体メーカーや植物工場企画会社など6社が、本学教員との共同研究を進めている。このほかにも同センター では、中小企業向けの経営支援セミナーの開催、試験分析・試作加工装置の学外開放、常駐のスタッフによる資金調達・販路拡大支援、研究推進部による特許取 得支援などを行い、さまざまな角度から中小企業の経営をサポート。地域産学連携研究センターはこうした活動をまとめた2012年度報告書をホームページ(http://www.meiji.ac.jp/cii/index.html)で公開している。

*養液土耕栽培

乾燥地であるイスラエルで1950年代に節水栽培として開発された。肥料の入った培養液をチューブから点滴のように土壌に滴らせて作物を育成する。必要な 時に必要なだけ培養液を供給するため、水や肥料が効率的に利用できるほか、作物の生育が良くなり、収穫量の向上が見込まれる。