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本棚『カナダ・アメリカ紀行』イザベラ・バード 著 長尾 史郎 ほか訳(中央公論事業出版、2300円+税)



本訳書は、イザベラ・バード(Isabella L. Bird)による原題The Englishwoman in America(1856)の本邦初の翻訳で、アメリカ南北戦争直前(1854年6月から12月にかけて)のカナダ・アメリカでの旅行記である。本書は全20章で400頁を超え、独立から1世紀も経たない19世紀半ばのアメリカの現状やイギリスの植民地であるカナダを知る為には、とても有益である。

原書の第13章では、原著者はイギリス本国の上院(貴族院)を"House of Peers"と記述しているが、正しくは"House of Lords"である。イギリスの議会制度を模範とした日本の明治憲法下に於ける貴族院は、海外では"House of Peers"と呼ばれることはある。

第16章「ニューヨーク」での、同時代のロンドンとニューヨークの、とりわけ交通機関の対比には興味深いものがある。ロンドンでは、ヴィクトリア朝初期に既に地上交通がピークに達しており、1863年に世界初の地下鉄が開通したのであった。

宇野毅・経営学部教授
(訳者は名誉教授)