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岐路に立つリバティアカデミー

リバティアカデミー長 須田 努

過日、リバティアカデミーのオープン講座「坂東玉三郎講演会—演じるということ2014」が開催された。わたしは、浄瑠璃・歌舞伎を歴史資料として位置づけ、江戸時代民衆の集合心性の様相を研究しているため、玉三郎さんにお会いできることを楽しみにしていた。控え室での玉三郎さんは、偉ぶったところなど微塵もなく、話も所作も美しい方であった。講演は、約1200人もの受講生が参加する大盛況だった。受講生からのメッセージには「日々の生活の中で自分の生き方を考え一歩ずつ歩もうと思います。言葉より生きる姿勢を教わった思いです」というものがあった。ここには、リバティアカデミーの持つ社会的役割が具体化されている。日常の生活を見直し、そこから一歩踏み出すきっかけになる“知”をいかに社会に伝えるか、ということである。

明治大学は、教育・研究・社会連携を三本の柱としている—わたしは、“三本の矢”と認識している—。中世の西ヨーロッパで生まれた大学は、学生の自治の空間であると同時に、社会に開かれた啓蒙の場ともなっていた。現在、日本の大学が、高齢化社会に対応した生涯教育への意識を持つ、ということは当たり前として、創立から130年を超える明治大学は、社会にとって大学とは何であるか、という大学の理念=大学の原点を問い直すべきであろう。

リバティアカデミーの実績を示す数字を紹介したい。1999年、発足時の講座数は36講座、受講生は2081人だった。その後、教養・文化講座、ビジネスプログラム講座、資格・実務講座、語学講座、特別企画講座、オープン講座、といったカテゴリーを設置し、2013年度には、総数406講座となり、受講生は2万1327人までになった。

わたしも2009年以来、教養・文化講座を担当している。毎年、同じ講座を受講して下さる方々がいらっしゃる。このようなことは、学部の講義ではありえない。とてもありがたいことだが、心苦しくもある。受講者の9割は初修者の方々なので、講義レベルをその方々に合わせざるを得ないからだ。先述した実績の“数”には、このようなリピーターの受講生が随分入っている。皆さん、リバティアカデミー、そして明治大学のファンなのだ。

開設から16年経ったリバティアカデミーは現在、岐路に立っている。講座の拡大から厳選へ、“数”ではなく“質”へ、ということを考える時期に来ている。そこで、本年度秋期から教養・文化講座において、関連講座受講経験者を対象に、人数を限定したゼミ形式講座を導入することとした。また、来年度からは履修証明制度を導入し、受講生のモチベーションアップを図ろうと考えている。そして、駿河台・和泉・中野・生田・黒川、各キャンパス設置地域において、その地域のカルチャーや特性を意識した講座のさらなる充実を企図している。もちろん、“知”の発信者は明治大学の教員である。

(情報コミュニケーション学部教授)