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競争的環境と大学の現在

法学部長 間宮 勇

大学が競争的環境に置かれ、大学間競争の激化が言われて久しい。少子化が進行して受験生が減少し、定員を充足できない大学も現れている。他方で国の財政が悪化しているため十分な予算が確保できず、大学に対する補助金や交付金が削減されてきた。限られた予算を効果的に使うという趣旨で、大学からの申請に基づいて給付する競争的資金が増加している。先般、採択された「スーパーグローバル大学創成支援」もその一つであるが、本学は、これまでもCOEやグローバル30、そしてGP(グッドプラクティス)など多数の競争的資金を獲得してきた。それらの資金によって本学の研究ならびに教育が飛躍的に充実してきたことは疑いのないところである。そして同時に、そうした研究・教育の充実が本学の社会における評価を高めてきた。

しかし、日本の大学全体についてみるとどうであろうか。現在、700を超える大学があると言われているが、上記の競争的資金を獲得できるのは一部の大学でしかない。スーパーグローバル大学創成支援についていえば、トップ型のタイプAが13大学、本学が採択されたグローバル化牽引型のタイプBが24大学の計37大学である。グローバル30にいたっては13大学であった。経常的な補助金が削減される中で、競争的資金を獲得している大学が1割にも満たない現状では、日本の大学全体としての研究・教育の水準は、低下していかざるをえない。

他方で、競争的資金を獲得している大学についても、通常は助成額と同額の財政負担が求められ、競争的資金を獲得すればするほど予算が膨らんでくる。しかも、助成期間が終われば自走が求められ、プログラムの規模を維持しようとすれば財政を圧迫することになる。さらに、継続的に新たな競争的資金の獲得が求められるが、日本の大学では、様々な教育プログラムを実施するための専門の組織やスタッフを有するところは稀で、個々の教員が、日常の研究・教育の傍らその企画・申請・運営に係わり、その負担は年々増加して研究時間を十分確保できないという状況が進行している。「進むも地獄、留まるも地獄」と言われる所以である。

2013年のOECD報告によると、日本の公教育に対する支出のGDP比率は比較可能な30カ国の中で4年連続最下位であった。公的な奨学金についても給付がほとんどないため、奨学金を頼りに進学しようとすると、卒業時に数百万円の借金を背負うことになる。国際人権規約は、高等教育の漸進的な無償化を規定し、すべての者に対して能力に応じて均等な機会を与えることを要求している。日本の現状では、家計の事情で進学を諦める者もいるだろう。このことは、親の所得格差が子どもにも引き継がれることを意味する。現在、グローバル人材の養成が盛んに言われているが、個々の大学の努力には限界があり、日本の大学全体としては、ごく一部のエリートを養成することにならざるを得ない。このような現状は、日本の未来にとって、どのような意味を有するのか、真剣に考える必要があろう。
(法学部教授)