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大学の研究力について考える

研究活用知財本部長 長嶋 比呂志
教育、研究、社会貢献が大学の3つの使命として認識されるようになって久しい。大学における教育のあり方は、大学で営まれる高度な研究によって醸成される、知的・創造的な雰囲気の影響を大きく受けるはずである。学術的レベルの高い研究や、社会的使命の大きい研究に参加することで、学生は机上の勉強からは得られない多くのことを学び、人間としても成長する。大学教育の価値の一つは、研究に立脚した教育を学生に提供することにあると言っても過言ではあるまい。このことからも、優れた研究力を維持することは、大学の発展にとっての生命線であろう。

大学の個性・特色に基づく機能的分化が進む風潮の中で、多様で懐の深い総合大学として、同時に高い研究力を持った大学として本学を維持・発展させていくことは決して容易なことではなかろう。また、様々な角度からの大学のランク化が進む中で、優秀な学生の確保は、大学の将来を左右する最重要課題の一つである。優秀で意欲の高い学生にとって魅力のある大学作りのために、研究力が重要な要素であることに疑いの余地はあるまい。

私は農学部の所属だが、現在の研究の性格上、医学研究者との共同研究が多い。「自分の目の前の患者さんを治療するのは、医師として当然のこと。自分の手が届かない、より多くの患者さんを救うためには、研究に力を注いで、その成果を患者さんに届けなくてはならない」と、日夜努力を続けておられる多くの医学研究者の姿勢には頭が下がる。このような研究者の志や矜恃は、学生にとっての最高の教材ではないだろうか。「生きた教材」とも言うべき研究者に触れる機会を与えることも、研究を通しての教育の大きな意義であろう。

学内で営まれる一流の研究によって触発された学生は、その経験を自分自身が携わる研究や勉学の中に活かそうとするはずである。着眼点の独創性、創意工夫の精度の高さ、洗練された理論構築など、一流の研究が備える要素を学び、それらを自身の能力の一部として取り込むことで、学生は確実に成長する。

できるだけ多くの学生に、何かのきっかけを与えて大きく伸ばすことが、本学の教育の質として重要なのだと思う。学生にとって人生の転機となるような経験として、研究との出会いがあることを望みたい。大学では、学生は様々な出会いを経験するが、その中でも研究との出会いによって、大きな飛躍を遂げる学生は少なくないはずである。そのような出会いの質と量を高めることが、研究力の高い大学を標榜することの意義の一つではないだろうか。

学生生活におけるただの思い出には終わらない、研究との出会い。そういう出会いを学生に提供することが、大学の研究力の価値の一面、ということかもしれない。