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本棚「平和と人権の砦 日本国憲法」吉田 善明 著(敬文堂、3,200円+税)



長年の憲法研究を踏まえて著者は、自民党「憲法改正草案」や安倍首相と与党の安全保障の議論を体系的に分析しその中心思想を明らかにしている。

すなわち、戦後自民党は憲法第9条の非武装平和主義に反して自衛隊等の武力による平和や憲法改正を目指してきた。同草案は現行憲法を全面的に改正して国防軍を創設し、安倍首相は集団的自衛権を閣議決定して米軍の世界戦略に自衛隊を組み込む法制を目論んでいる。このあり方を、著者は、クラウゼヴィッツを参考にして次のようにいう。戦争に肝心なことは軍事力の強化だけでなくそれを支える国民の教育、治安、政治体制、政治、経済などを有機的に結合させて総力戦的に国家のあり方を導くことであると。そうすると、同草案によって、現行憲法の平和的生存権と基本的人権の尊重を具体化する国家構造から「国防」国家への転換が意図されている。その際天皇の元首化、国旗国歌も憲法に規定される。

現行憲法の平和的思想を確信する著者はこの危険な構造転換に立ち向かうよう訴えている。

笹川紀勝・法学部元教授(著者は名誉教授)