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人文知に根ざす学びと改革を

文学部長 石川 日出志

今年、国立大学や学術界に衝撃が走った。文科相決定として6月8日通知で「各大学の強み・特色・社会的役割を踏まえた速やかな組織改革に務める」よう求め、「特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めること」(傍点筆者)を求めた。流動する社会状況を踏まえた教育の質的転換を求めるだけでなく、分野を特定した組織の廃止や転換を迫っている。

こうした動向については今春から新聞各紙が特集等で報道し、論説や社説(朝日6/10・読売6/17等)で繰り返し報道・批判してきた。7月23日には、日本学術会議が幹事会声明として、今後の人文・社会科学や大学のあり方に多大な影響を及ぼす懸念を表明した。学術界共同の緊急声明である。国立大学はすでに対応中だが、私大は対象外などと考えてはいけない。文科省高等教育局長はすでに、「私立大学にも同じような取り組みを期待したい」(毎日7/24)と発言している。

流動する現代社会に対応できる人材育成を大学に求めるのは当然だし、実際に明治大学でもSGU事業をはじめ各種の教育改革を組織的に展開している。問題は、実践力と考える力を天秤にかけて実践力養成に特化するよう求める点である。そもそも、ある課題に取り組む場合、広く各種情報を集めて整理・分析し、幅広い選択肢を見出し、それをどう適用し、事後どのような問題が派生し得るかを考える力を伴わない実践力などあろうはずがない。社会が混迷すればするほど深い洞察力が求められ、それは古今東西の人類の経験と叡智(人文知)から学び取るものではないか。

私の専門は弥生時代の考古学である。しかし、旧石器時代から中・近世までや、アジアと欧米考古学の方法と成果、また自らの考古学思考の基盤と背景を知るために近・現代史も学ぶ。さらに応用の基礎として、自然・社会・人文諸分野の成果にも学ぶ。専門分野の最先端だけを追ったのではやがて先細りするのは自明だからである。それは学術界であれ実業界であれ、違いはなかろう。

改革はすでに継続している。わが文学部は、文・史学地理・心理社会の3学科13専攻から構成される。幅広い人文知を様々な糸口から学ぶ場を用意している。流動する社会に対応する力を備えるよう、学部・大学院とも様々な工夫・改善を重ねている。大学院では、専門のたこつぼ化を避けるために2004年から分野横断型科目を導入し、また2008年には文科省の大学院教育改革支援事業にも採択された。

研究面でも明大は大いに健闘している。「大学における高等教育の源は研究にあり」として研究・知財戦略機構が組織され、附属研究所・インスティテュート・特定課題ユニット等で組織的な研究を展開している。例えば、2014年度の科研費採択数は、考古学分野で明大は3位。東大や早大・慶大を凌いで大学でトップとなっている。

明治大学に限らず、こうした教育・研究の継続的努力に立脚した大学改革でありたい。

(文学部教授)