Go Forward

日本の新しい立ち位置

国際総合研究所長 林 良造

中国がGDPで日本を抜いて5年になる。考えてみれば、第2位の国がその座を譲った後国際的に尊敬を勝ち得続けることは簡単ではない。翻って見ると、英国・ドイツともにそれぞれ様々な変化を経て、世界での新たな役割を見つけ存在感を発揮している。今回の場合には、入れ替わった中国が、同じアジアにあって国境を接する国であり、また、価値観の異なった面があるという特性がある。

その中国は、米国との新たな大国関係樹立を目指して、安全保障面でも経済面でも存在感の拡大を主張している。しかし一方では、経済は高度成長から安定成長への転換点を迎え内部の摩擦が拡大するなど不安定性を増している。また国際的にも、安全保障・経済両面での存在感の主張は大きな波紋をアジア地域に投げかけている。

そして、日本・中国を含むアジアは、今も激動を続ける成長センターであり、その中には超大国となる可能性のあるインドや、多様性を抱えながら力をつけつつあるASEANも含まれている。

そして今、世界でもアジアでも、落ち着いた安定的な力として、日本が再認識されてきている。アベノミクスは派手な経済活性化に成功したとは言い難いが、着実に日本の企業の経営力・技術力をよみがえらせつつある。新旧の日本の文化も多くの国の人の心をとらえている。

いま改めて、「中所得国の罠」に陥らず自立的先進国へと進んでいった日本経済の秘密、日本の安定した産業技術、新たなものを生み出す力、少ない貧富の差、行き届いた社会保障など多くのものを、アジアの諸国は、中国も含めて学ぼうとしている。また、環境政策、消費者保護政策、安全政策など改めて評価をされている分野も多い。

さらにアジアには、中国の持つ経済力には頼りたい一方で、その対外的な主張や価値観に対して違和感を持ち、日本に安全保障上の安定をもたらす役割を期待する国も多い。例えば、多くの国からサイバーセキュリティ上での、ハード・ソフトのインフラの提供を期待する声が寄せられている。

もちろんこうした評価に応え続けていくことは簡単ではない。これらの多くのものは、戦後問題に直面するごとに一歩一歩意見の相違を乗り越えて積み上げてきたものであり、いまだに様々な意見がぶつかり変化を続けているものでもある。そもそも、経済の持続的成長力は不可欠であるが、現在本当に持続可能なものになっているのか問題も多い。安全保障上の対応にしても、国論がきれいに整理されているわけでもない。

ただ、こうして戦後達成してきたものを振り返り、また、その経験が役に立つ分野が多いことを知り、それを期待している国が多いことを知ると、改めて、戦後の日本の発展の道筋を振り返り、それを咀嚼し、決して押し付けるわけではなく、しかしはっきりと発信していくことの重要さに気づく。そしてこれを持続可能なものとして、新たな変化を受けいれつつ、発展させ続ける責任を感じる。

国際総合研究所においても、そのような視点で、研究を続けている。

(研究・知財戦略機構特任教授)