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本棚「現代イギリスの社会と文化 増補版 ゆとりと思いやりの国」宇野 毅 著(彩流社、2,500円+税)



本書は2011年に出版され好評を博した前著に、新たに第6章「スコットランドの独立問題を考える」を加え、掲載資料のデータを更新した増補版である。国家と王室の近現代史、住宅や買物などの生活事情、芸術と食文化、教育など社会生活に関する諸制度、陸空の交通事情、スコットランドの地方分権への歩みと、扱われるテーマは多岐にわたる。現行の諸制度の単なる紹介ではなく、それらが誕生に至った歴史的経緯にまで及ぶ解説はとても丁寧でわかりやすい。

類書が多い中でもひときわ光彩を放つのは、紹介される驚きの異文化体験の多くが、20回以上も英国に滞在した著者自身の実体験に基づいて書かれている点であり、本書には現地で役立つ情報が満載である。量り売りのりんごを店内で丸かじりしながらレジへ向かう買い物客、スタンドのない自転車、濯がない食器の洗い方など、実に興味深い。

多くの実例を示しつつ、比較文化論的観点から「ゆとりと思いやりの国」の魅力に迫る本書は、現代イギリスの実像を知る上で格好の一冊である。

今野史昭・商学部講師(著者は経営学部教授)