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本棚「インドの社会と名誉殺人」チャンダー・スータ ドグラ 著、鳥居 千代香 訳(柘植書房新社、2,500円+税)



まるで小説か映画のシナリオを読むような緊迫感が漂う本書は、2007年にインドで起こった「名誉殺人」についてのドキュメントである。マノジとバブリーという二人の若者が、同じ共同体出身の結婚を近親相姦として禁止する一族の名誉を汚したとして、花嫁の兄や叔父達によって惨殺された。近代化著しく、世界経済でその存在感を日々増しているインドで、名誉の名の下に行われる暴力行為は決して稀なことではない。多くは闇の中に葬られてしまう。しかし今回の事件が異なったのは、夫の母親、妹が戦ったことである。自身も村八分に会い、襲撃される恐怖と戦いながら、二人は屈しなかった。殺人という行為は、何があろうと社会の名誉や文化・伝統の名の下に正当化されるものではない、と。それをジャーナリズムや女性団体、心ある女性判事たちが助けた。希望も見えるが、事件は小説のようにハッピーエンドで終りとはいかない。そこには女性や個人、共同体についての我々とも無縁ではない根深い問題があるのを、本書は気づかせてくれる。

吉田恵子・元情報コミュニケーション学部教授(訳者は政治経済学部兼任講師)