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本棚「ジョルジュ・バタイユの反建築—コンコルド広場占拠」ドゥニ・オリエ 著 岩野 卓司ほか 訳(水声社、4,800円+税)



ジョルジュ・バタイユを「大思想家」と呼ぶことにはためらいを覚える。大小とは比較の問題であり、ある共通の尺度を前提とする。だがバタイユは、まさに尺度を打ち壊すのだ。その名(フランス語で「戦闘」)のとおり、彼は思考という巨大な龍に対して戦いをしかける(聖ジョルジュはドラゴン退治の伝説で知られる)。トマス・アクィナスの『神学大全』に対して、『無神学大全』を標榜する。ヘーゲルの「絶対知」に対して「非知」を対置する。そこにあるのは思考の「外」だ。

本書はそのバタイユ研究のもっとも重要な基本図書。原著は1974年刊行だが、まったく古びていない。発想の新鮮さ、論述のゆたかさ。あらゆるプロジェクトは完成をめざし、建築はその範型だが、バタイユの著述は迷宮を志向し、異論理を演出する。「現代の美術館の起源は、ギロチンの発展と結びついている」。たとえばこんなバタイユの発想にふれることが、「近代」が隠してきたものを教えてくれるだろう。分野を超えて大きな刺激をもたらす好著だ。

管啓次郎・理工学部教授(訳者は法学部教授)