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本棚「失われた時を求めて(4) 第二篇『花咲く乙女たちのかげに2』」 プルースト 著 高遠 弘美 訳(光文社、1,500円+税)



プルーストの小説『失われた時を求めて』は、フランス文学の金字塔ともいうべき作品である。19世紀から20世紀初頭のフランス社会が主人公マルセルの視点から描かれており、恋愛、社交、政治、芸術などが織りなす豊かな世界がそこにはある。10巻にもわたる大著なのに日本でも既に5つの翻訳が存在する。その中でも僕が高遠訳を特に推したいのは、何といっても言葉に色気があるからである。お菓子のマドレーヌを形容するのに、他の訳者はみな「ふっくら」と訳すのに、高遠訳だけは「ぽってり」とある。なんとも艶めかしいではないか。本巻「花咲く乙女たちのかげに2」では、主人公の恋人アルベルチーヌが登場する、ノルマンディーの浜辺の場面は特に印象的である。彼女は捉えどころのない魅力の持ち主であるが、この巻でも初々しく清楚であったり、それでいて肉感的であったりする。この微妙さをプルーストは見事に描いているのだが、翻訳は独特な色気で迫っている。高遠プルーストの世界を是非堪能していただきたい。

岩野卓司・法学部教授(著者は商学部教授)