本棚「超説ハプスブルク家 貴賤百態大公戯」菊池 良生 著(エイチアンドアイ、1,800円+税)



プリンスは屈託を抱えていた。たしかにオレは王族だし、生涯年金も保障されている。しかし王になれる可能性は限りなくゼロに近く、結婚相手も王族限定だ。オレはこのまま飼い殺され、遊び暮らせばいいのか? オレはそれで幸せなのか・・・?

歴史ファンの間ではつとに知られた著者による新刊は、貴賤婚にまつわる王族たちの「百態」を鮮やかに描き出す。5つの宗教と12の民族を抱えるハプスブルク家は、他の王家との結びつきを強化すべく、「賤」(=王族以外は全員!)との結婚を禁じてきた。ただそれでもなお、貴賤婚を選ぶ皇族はいたのだ。オペラ座の舞姫との純愛を貫き、やがて海運業に乗り出す大公。郵便局長の娘を娶った大公。隻眼の伯爵と恋に落ちた元ナポレオン皇帝妃。そして1914年、サラエボで凶弾に倒れたオーストリア皇太子夫妻もまた、貴賤婚ではなかったか?

著者ならではの、情愛のこもった洒脱な語り口は、今回も健在だ。そして本書のどの1ページからも、19世紀ヨーロッパを覆う王族ネットワークを透かして、熱い叫び、哀願、愁訴、そして溜め息が立ち上ってくる。ここには、たしかに人間がいる。

清岡智比古・理工学部教授
(著者も理工学部教授)

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