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本棚「夢のソンダージュ」夏石 番矢 著(沖積舎、3,500円+税)



スペイン黄金世紀の作家ケベードは、『夢』という奇怪な諸編を書き残している。本編は夏石氏(乾先生)が2002年5月23日に見た夢(1)から13年後の2015年10月24日の夢(200)までを記録したものであるが、ケベードの作品と同じく、断片的なイメージが連続し、展開は恣意的だ。しかし、どの「夢」からも僕らが身辺で目にする平生のシーンが、なぜか不気味に立ち上がってくる。そのため、読み手は身震いせずにいられない。たとえば、「夢139」——「天井が異様に低い建物は/大学の校舎/ドアも異様に小さい/トイレは迷路の奥」。和泉の教員なら、すぐさま研究棟の暗い廊下を思い浮かべるはずだ。たった4行にこれほど迫真のリアリティ。その夢の続きは——「途中には死骸と土だけが詰まった部屋/何もない部屋でH先生の授業が行われている/これらの建物は原始キリスト教の遺跡」。死骸、土、何もない部屋、授業、宗教、遺跡といったイメージが頭の中で勝手に連関しはじめる……

大楠栄三・法学部教授(著者も法学部教授)