Go Forward

利他の心で拓く戦略的広報の新展開

副学長(広報担当)牛尾 奈緒美

入学当初、人とコミュニケーションをとるのが苦手で常にマスクで顔を覆い、私やゼミ生とも目を合わすこともできなかった学生は、この春晴れて大手メーカーの入社内定を獲得、自信に満ちた笑顔で報告に訪れた。涙と苦悩、紆余曲折の4年間であったが、この学生がここまで成長できたことは、教員としてこの上ない喜びであるとともに、若者のもつ潜在能力の高さや大学教育の重要性を改めて実感する出来事であった。学生が大きく変貌していく過程には、当然のことながら私以外にも多くの教員の方々の親身な指導があり、ゼミ仲間や友人たちの励まし、職員の方々の懇切丁寧な就職キャリア支援、さらにはOB・OGや父母会の方々からのアドバイス等、種々の支援があったことは言うまでもない。そうした輪の中で学生が学び、自己の意見や考えをもって他者に働きかけ、物事を解決していく力を獲得していったからこそ、社会で活躍できる人材としての素地を身に着けることができた。就職はその証といえる。

大学のブランド力とは何であろう?たとえば「就職に強い明治」というありがたい評価を耳にすることがある。学生たちの能力の高さや努力を所与とすれば、これはまさに本学が長年にわたり培ってきた教職員、校友、父母の一丸となっての学生支援の賜物であると考える。大学には、創立以来、「オール明治」の連帯が脈々と受け継がれ、学生たちの未来をより明るく照らすためにそれぞれが献身的に力を合わせる<Student's first>の気風が満ち溢れている。<Student's first>は言い換えれば利他の精神に他ならず、学生一人ひとりの「個」を重んじ大切に育てていく本学の教育理念は、こうした他者を思いやる心によって支えられている。これこそ本学の誇るべきブランド価値ではないだろうか。

「大学全入時代」といわれて久しいが、経済の先行き不透明感から大学選びの目はますます厳しくなり、浪人をしてでも入りたい大学と簡単に入れても入りたくない大学の二極化が加速している。1992年に205万人だった18歳人口は2014年には118万人に減少、2018年からは減少傾向に拍車がかかり2030年以降は100万人台を割り込むという試算もあり、これにより私立や国公立を問わず約半数の大学が経営難に陥るという「2018年問題」が取り沙汰されている。今後、大学進学率に大きな変動がない限り大学の淘汰が進むことは必至である。こうした外部環境変化に対応して、大学はさらなるブランド力の強化、個々の大学の存在意義を内外に積極的に伝えるために広報活動の戦略化が重要となっている。

しかし、本学における戦略的広報は競争激化に伴う生き残り策ではなく、大学の本質的な存在意義に根差した極めて社会性の高い能動的コミュニケーション活動であるべきだと考える。<Student's first>の精神のもと進化する明治大学の教育のあり方や、優れた研究成果、被災地支援や地方創生等に貢献する社会連携活動、スポーツ・文化など大学の持つ幅広い分野からの業績・成果を広く社会に発信・情報共有を促進することにより、新たな知の創造や人的ネットワークの拡充が推し進められ、それらが幸福な社会の実現や人類の発展につながっていく。「共創的未来の実現」のために最も効果的かつ有効な方法で本学のブランド力を内外に発信していく、そうした意味での戦略的広報の展開を目指していきたい。

(情報コミュニケーション学部教授)