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本棚「異形の念仏行者—もうひとつの日本精神史—」 内村 和至 著(青土社、3,200円+税)



「信仰の根源へ」という帯の惹句や書名は、正統な浄土思想からはみ出した特異な信仰者たちを取り上げた宗教史・宗教思想の研究書と自己申告する。もちろん、取り上げられるテクスト群に対する、文献学的に精緻で実証的なアプローチは、これまでの研究の間隙を埋め、新たな宗教史・精神史を描き出すことに成功している。しかし、騙されてはいけない。事物は配置によってその意味合いや姿を変える。著者自身が「奇妙なサンドイッチ」と呼ぶ本書の構成は、烈しい情念をもって信仰の世界を生きた待定や無能、その信仰のドラマを記述した宝州といった、無名に近い江戸期の浄土僧たちを実証主義的な手さばきで描き出す部分を中核としながら、文学とメディアをめぐる根源的な探究、批評的なエッセイがそれらを挟み込んでいるのだ。信仰が生まれ記述される現場へと視力を凝らす著者は、言葉にならないものの実在を言葉によって指し示す営みである文学がどのように生成するのか(しないのか)について刺激的な思索を繰り広げているのである。

武田比呂男・文学部兼任講師(著者は文学部教授)