本棚「知の橋懸(がか)り—能と教育をめぐって」土屋 恵一郎 中沢 新一 著(明治大学出版会、2,200円+税)



精神に障害をもった人達が描いた絵をアール・ブリュットと言う。ただ、障害をもっているが故に、彼らの芸術は事物の本質に肉薄している。本書の面白さは、ひとつのアール・ブリュットを創りあげていることにあるのではないのだろうか。というのも『知の橋懸り』は、訓詁注釈の狭い専門知の学問制度では「障害」をもった大学教授と、役人的な発想の学内行政では「障害」をかかえた学長との対話だからである。とはいえ、この「障害」を活かしながら、中沢氏は「野生の科学」をイメージした斬新な発想をリゾーム的に増殖させてやすやすと専門の障壁を乗り越えており、土屋氏は能のプロデュースという異質なものを大学教育に持ち込み知のシステムを脱構築している。彼らの対話やインタビューは、世阿弥、宿神、レンマ、身体などを巡るものであり、一見すると大学教育とは無縁に見えるかもしれない。だが、彼らの「障害者」の光学は、両者を結び付けることで、従来の知のあり方の限界を暴き、来るべき大学の姿を見つめているのだ。

岩野卓司・法学部教授
(著者は明治大学長、研究・知財戦略機構特任教授)

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