本棚「ブリューゲルの世界」 森 洋子 著(新潮社、1,800円+税)



本書は、著者による最新のブリューゲル研究の成果を反映した、大変読み応えがある内容で、巷に多く出回っている通り一遍の解説書とは大きく異なっている。ウィーンとロッテルダムの二つの《バベルの塔》を比較することで、著者は主題の真の意味に迫る新解釈を提唱している。古い解釈を乗り越えて別の新しい解釈が生み出される研究の現場が、生き生きと伝わってくる。作品分析のみならず、ブリューゲルと知友、パトロンらとの交流、旅、信仰など、さまざまな観点が取り上げられている。また著者は、描かれた農家、納屋、道具の実物を探して、野外民俗博物館での調査を重ね、その結果、現代に生き続けるブリューゲルを鮮やかに浮かび上がらせた。最新の研究成果は、「垣根芝居」と「農民との結婚の薦め」の解釈にも見られる。ここでは、ブリューゲルが農民の出自であったという通説が覆され、人文主義的な教養を持つブリューゲルの姿が、著者の新解釈によって見事に描き出される。新たな知の地平へと日々進化し続けるブリューゲル研究がここにある。
 
瀧口美香・商学部准教授
(著者は明治大学名誉教授)

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