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本棚「昭和天皇の戦争—— 「昭和天皇実録」に残されたこと・消されたこと」山田 朗 著 (岩波書店、2,400円+税)



2014年に公開された「昭和天皇実録」(以下、「実録」)がメディアで大々的に報じられ、広く社会の関心を集めたことは記憶に新しい。一般人にとって、「実録」は宮内庁編修ということもあり、昭和天皇の公的かつ「絶対的」な伝記と受けとられたのではないだろうか。しかしながら、「実録」は昭和天皇の公的な事績録という性格であるがゆえ、歴史学的検証に照らしてみると、様々な問題が浮かびあがってくる。

本書は、昭和天皇と戦争との関係を長年研究してきた著者が従来までの研究分析をもとに、新たに「実録」の検証という作業を通じて昭和天皇による戦争指導の実態を明らかにし、そのうえで「実録」の問題点を提起した研究書である。「実録」では中国やアメリカとの戦争を忌避していたという天皇の平和主義者の側面が強調されているが、本書の検証では、即位以来、昭和天皇が大元帥たる自覚のもと戦争指導に携わり、対米戦にも傾斜していく様子や戦時中に各作戦について指示を発していた様子が克明に描かれている。
茶谷 誠一・文学部兼任講師
(著者は文学部教授)