Go Forward

論壇 「大学・学生の国際化に向けて」理事 大原 幸男

本学は、2012年度に文部科学省「グローバル人材育成推進事業(タイプB:特色型)」に採択されて以降、学生の海外留学機会の拡大に向けた取り組みを加速させている。

そこで、私自身、駐在員として1977年から2度にわたり、トータル15年間、アメリカ西海岸のシリコンバレーで家族と共に生活をしていた経験を踏まえて、留学に関する送り出す大学側、出掛ける学生側の両面を踏まえた、いくつかの留意点を考えてみたいと思う。

まずは、留学をする国・場所の治安については、あらかじめ大学側も関心を持ち、安全性を調査し、それに基づき学生に対し、適切なアドバイスを提供できる知識の集積が必要である。日本は世界の中でもまれにみる安全な国で、それゆえに海外でも日本にいるのと同じ感覚で、ほとんど無防備・無警戒でも通用すると思いがちだが、それが思いも寄らない事故に巻き込まれる要因となることが多々ある。

学生が海外での生活をエンジョイすることは、もちろん大切なことであるが、絶えず「自分は外国人である」ということを意識して、現地で生活をする必要がある。しかし、過度に憶病になる必要はない。できるだけ日本人以外の人々との交流を深めることを推奨する。そうすることにより、他の国の人々には、さまざまな価値観が存在することを実感し、自分達と違う価値観を許容する寛大さも身につくことになるだろう。

海外で生活し、人々との付き合いが深まるにつれ、宗教についての理解が不十分だと支障が出ることがあるので、最低限の知識を学んでおくことも大事だ。日本では宗教が日常生活に影響を及ぼすことはあまりないが、海外では、人々の生活の芯の部分に宗教があることは一般的であり、各種行事にも背景を知らないと理解しづらいこともある。

また、歴史について、特にアジアの国々に留学する学生には、日本の近代史について学んでおくことをお薦めする。これは別に誰かと議論をするためにという訳ではなく、相手の言い分がどこから来ているのかを理解するためにも、必要な知識を持っておくことが大事だからだ。もしも大学側で、これらの宗教や近代日本史の知識を得る適当な講座があるなら、あらかじめ履修、ないしは聴講を勧めてみるのが良いだろう。

留学を経験し、将来グローバル人材になろうと思っている学生諸君には、まずは日本人としてのアイデンティティーをしっかり持ってもらい、他国の言葉や文化を理解した上で、世界を駆け巡り、活躍をする人材になってほしいと願っている。

結びに、海外では、必ずしも「沈黙は金」ではない。自分の意見を言わないことは、意見が無いからだと思われてしまうことがある。逆に、自分の主張をまくし立てるよりも、聞き上手であることの方が効果的である場合もある。この辺りを臨機応変に対応できるようになれば、立派なグローバル人材になれたといえるだろう。