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本棚「労働と雇用の経済学」永野 仁 著 (中央経済社、2,400円+税)



本書は労働経済学の入門書として書かれているが、『労働と雇用の経済学』というタイトルが示すとおり、働く側のみに焦点をあてるのではなく、広く雇用を取り巻く現代の多様な社会関係を含めて論じられている。

5部構成のうち前半の3部は原理的なテーマを扱い、後半では内部労働市場、賃金、非正社員や女性、高齢者、外国人など具体的な労働問題の分析をおこなっている。全体を通して、著者自身による長年の調査を含めた説得的なデータを元にして議論が展開されており、個別の労働問題と国の政策、社会動向との関わりも分かりやすく示されている。この記述が類書に比べ極めて明快で、引き込まれる内容となっており、今日的な変化を広い社会的動向の中で捉えられるようになっている。

経済のグローバル化や人口構成の少子高齢化などを背景として、労働と雇用のあるべき姿について様々な立場から議論がある。手堅い実証に裏付けられた本書を、大きく変わろうとする労働の世界を的確に理解する格好の一冊としてお薦めしたい。

山下 充・経営学部准教授
(著者は政治経済学部教授)