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本棚「美の日本『もののあはれ』から『かわいい』まで」伊藤 氏貴 著 (明治大学出版会、2,300円+税)



皆さんは、例えばパンダのシャンシャンを見て、何と言いますか。「かーわーいーいー!」と身をよじらせて叫んでしまうという方は、おそらく若い女性であり、おじさんではないはずです。本書を読むとその理由がわかります。著者によれば「かわいい」は、「いき」「わび」「さび」と同じ日本の美意識であり、その特性が若い女性にそう言わせるのです。

このように本書は、「もののあはれ」「いき」など日本の美意識の構造的特性を岡倉天心、本居宣長、大西克礼らの文芸批評を通して鋭くとらえ、以て現代の「かわいい」までを議論の俎上(そじょう)に載せた、画期的な書です。さらに注目すべきは、「美」こそが日本のアイデンティティである、という著者の主張です。本書は美意識論であると同時に日本人論なのです。

著者が危惧するように、私たちは日本政府が外貨獲得のために打ち出す戦略的自己イメージに無自覚に染まっていないでしょうか。グローバル化が日々進行する昨今こそ、真の「日本美」とは「日本」とは何か、本書を手に探究してみることをお勧めします。

清水 有子・文学部専任講師
(著者は文学部准教授)