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本棚『経済理論と認知科学 ミクロ的説明』ドン・ロス 著/長尾 史郎 監訳/三上 真寛 訳  学文社 5,400円+税



「我に支点を与えよ、さすれば地球をも動かして見せよう」。このアルキメデスの「梃子の原理」発見時の言を監訳者長尾史郎は紹介する。本書は、Don Ross, Economic Theory and Cognitive Science: Microexplanation, MIT Press, 2005の翻訳である。ドン・ロス教授はアイルランドの大学とケ-プタウン大の教授を兼務し、経済学方法論・経済哲学の論客として名高い。

認知科学はこころMind、知識の理解・生成・発展、そして人間の認識能力を説明する“モデル”の科学として発展してきた。ロスは人間の行動を捉える上で認知科学と経済理論を結びつけたが、その際立つ特徴は、新古典派経済理論における個人は第一義的には生物学的個人ではなく、個人未満のニューロンやモジュールに適用されるべきものとした点にある。

本訳書は長尾・三上師弟による長年の共同作業の成果であり、三上真寛の語るように経済学の新しい潮流—行動経済学、経済心理学、実験経済学など—に妥当な哲学的基礎を与え、同時に、それを経済学の伝統的な流れの中に位置づけ、経済学の地位を回復する試みである。総合人間学ともいえる好著である。

藤江 昌嗣・経営学部教授
(監訳者は名誉教授、訳者は経営学部准教授)