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本棚『シモーヌ・ヴェイユ≪別冊水声通信≫』 岩野 卓司 共著 水声社 2,800円+税



本書は、フランスの哲学者にして詩人でもあったシモーヌ・ヴェイユ——もちろん昨年亡くなった同名の政治家ではない——の未翻訳テクストと、同時代の作家や思想家の証言、さらにはその研究を集めたアンソロジーである。とはいえ本書が、専門家の目にしか触れないのはあまりに惜しい。例えば、新たに訳された数ページばかりの「最前線看護婦部隊編成計画」をめくっただけでも、映画『ハクソー・リッジ』の世界をはるかにしのぐ、ヴェイユの思想的形象の鬼気迫る一端を垣間見ることができるだろう。

戦後以降、ヴェイユは少しずつ訳されてきたが、21世紀に入って岩波文庫や河出文庫のラインナップにも加わり、情報量が急速に増えつつある。宗教、科学、戦争、植民地、共同体、女性性について思考をめぐらし、政治にも創作にもかかわったヴェイユとは何者だったのか。本書は、日仏双方におけるヴェイユおよび周辺分野の研究者たちが、その科学論から、現代日本のドキュメンタリー映画との関係まで、多様な論点を提示している。
立花 史・法学部兼任講師
(共著者は法学部教授)