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本棚『井出一太郎回顧録 保守リベラル政治家の歩み』竹内 桂 共著 吉田書店、3,600円+税



井出一太郎は、三木武夫内閣で官房長官を務めるなど三度の入閣経験を持つ自民党政権の重鎮であった。しかし、「一強」時代の自民党政治に親しんでいるものには意外に思うかもしれない。

「リベラル」を自称し、日本国憲法制定の憲法審議に参画したことを密かに誇りに思い、農相を務めた際の宰相・岸信介を開戦の詔に署名した責任があるとして戦後の日本政界に復帰させるべきでなかったと語る。

確かに彼は「保守傍流」と呼ばれる流れのなかにいた。しかし、55年体制の自民党政治でも確固たる足場を築いた井出の政治遍歴は、あのときの「自民党」という政党の分厚さを逆照射する。

政治を動かすのは、つまるところやはり「人」なのだ。だから、日の目を見ない史料に光を当て、蔵匿されていた声に耳を傾け、あの時確かに歴史の流れの中にいた「人」を蘇らせることが政治研究においていかに大切か。保守リベラル政治家の回顧に寄り添って、戦後日本政治史をもういちど歩み直す。見えなかった風景が、ここに広がる。

木寺 元・政治経済学部准教授
(共著者は政治経済学部助教)