Go Forward

情報コミュニケーション学部長 大黒 岳彦

学生や同僚の多くには知られているのだが、筆者は1992年から2000年までNHKのディレクター職に就いていた。明治大学への奉職が2003年なのでアカデミアでの在職期間がテレビマンとしてのそれを現在は大きく上回った。ところが先日、18年ぶりにテレビと関わる機会があった。放送大学の地上波放送が9月いっぱいで終了し、BS放送に完全移行するのを記念して、従来の番組とは違う、ライブ感あるクロス討論番組を企画したので出演してほしいという依頼を受けたのである。8年間番組のディレクションは経験してきたが、出演のほうは初めてである。迷ったが思い切って受けることにした。

番組タイトルは、「BSキャンパスEXスペシャル 人工知能(AI)の未来は?」で、討論相手はドワンゴ人工知能研究所所長の山川宏氏、若者代表として慶應義塾大学SFCを卒業後、プログラミングができるタレントとして活躍中の池澤あやか氏が加わる。驚いたことに、プロデューサーと司会のアナウンサーはNHK名古屋局時代の元同僚であった。久しぶりに足を踏み入れたスタジオでの収録は4時間に及び、緊張と気遣いでヘトヘトになったが、期待された役割はなんとか果たせたと思う。

前半では、人間の脳を模した汎用型の人工知能を開発中の山川氏に、AIの最先端を聞く体裁で討論が進み、筆者もいくつかの質問を投げかけてみた。山川氏はどうもAIの将来について楽観的なようである。後半では、AIが社会にどのような影響を及ぼすかを巡っての討論が白熱した。筆者は悲観派の役回りである。実際、昨今のAIブームには正直、首を傾げており、先頃上梓した書籍でもその旨を述べた。

一言でいえば、世間はAIに対する過剰反応が過ぎる。現在のAIが行っているのは、基本的にビッグデータからのパターン抽出、特徴検出に過ぎない。もちろん、これは人間には困難な作業であって、その限りではすでにAIは人間を超えている。だが、それをもってAIが何かを創造したと勘違いしてはならない。ビッグデータの解析によって、アインシュタインの相対性理論や、シェークスピアの戯曲が誕生することは、断言するが、金輪際ない。教育界でも現場へのAI導入の議論が喧しいが、実態を知らずにいっときの風潮に踊らされるのは研究者・教育人として慎んだほうがよい。主役はあくまでも「人間」なのである。情報コミュニケーション学部では、世界各国の大学・研究機関から若手の優秀な「人間」を短期集中で招請して一コマを編む「世界のキャンパスから」がこの秋から始まる。

※番組の放映は10月7日、午前7時30分から。筆者が上梓した書籍は『情報社会の〈哲学〉──グーグル・ビッグデータ・人工知能』(勁草書房)です。併せてご覧ください。
(情報コミュニケーション学部教授)